平成の世は、自然災害抜きには語れない。地震、津波、台風、大雪、噴火。この夏は、豪雨が西日本を襲った。16年4月14日の熊本地震から2年余り。復興途上の地で行われたオールスターには、野球界として支援を続けていく決意が込められている。7年前の東日本大震災の際、楽天嶋は呼び掛けた。「見せましょう、野球の底力を」。ひたむきなプレーは、困難な状況にある人たちに力を与えてくれる。野球人は「野球の力」を信じている。【プロ野球取材班】
「野球の力」とは何だろう? 日米であまたの経験を重ねた西武松井は「難しいね…」と言葉に詰まった。答えは無限にある。20分以上、考え、こう言った。
「球場に来てくれるお客さんと一体になれること。勝てば喜ぶ。負ければ悔しい。ファンも、選手も、そう。野球には、ひとつにまとまる力がある」
大ベテランだけではない。ルーキーも同じ考えだ。
「球場が一体となって戦った時、野球の力をすごく感じます。プロ初登板の時、応援の力、魅力を思い知りました」(DeNA東)
13歳だった11年に、東日本大震災を経験した宮城出身のロッテ平沢は言った。
「楽天が優勝した年(13年)、県民全体が盛り上がる感じがありました。注目度が高い分、人に与えられるものも大きいと感じました」
一体感をくれるファンに、野球人は応えたい。
「球宴の試合を見ていただいて、少しでも明るく元気になってくれる人がいたらうれしい」(中日松坂)
「ワクワク、ドキドキ。野球って、そういう魅力がある。つらい時、悲しい時、気持ちを変えてくれる」(楽天銀次)
「みんなに元気を与えたい。そのためには、どんな時も元気を出してやらないといけない」(巨人岡本)
「感動を与える。大逆転。ファインプレー。瞬間、瞬間が人の心を動かす。プレーしている自分たちが感動することも多々ある」(巨人坂本勇)
「一瞬の場面で、見る方も、やる方も、何かを忘れるぐらいの感動を覚えたり与えたりすることができる。没頭する魅力はある」(ヤクルト小川監督)
一昨年に難病の潰瘍性大腸炎を発症したオリックス安達は、より具体的に考えている。
「普通の人だけじゃなく病気の人にも元気を与えられるのかなと思っている」
感動や元気だけではない。西武秋山は言う。
「選手は普段どおり野球をやる。それを見てくれる人たちがいる。大変なことがあっても、その間は日常を感じてもらえる。話のネタになる。プロ野球は娯楽のひとつ。それがなくなるのは寂しいことだから」
日常の暮らしがあるから、野球ができる。
阪神馬場は「人に喜んでもらうためにプロ野球がある」と言った。だから、こう考える。「一生懸命野球をやることが一番大事」。野球人共通の思いだ。
「一生懸命、全力で打つ、投げる姿を見て、何かを感じてもらえる力がある。見ている人がどう感じるか。まずは自分のために全力を尽くせば、何かを感じてもらえる」(巨人上原)
「勝敗にこだわり全力でプレーする姿が、見る人に何かを伝える」(西武森)
「一生懸命やることで伝わるものってあると思う。僕らって野球することしかできない」(ロッテ内)
「全力プレーに尽きる。必死にプレーして、見ている人の心が動けば。今は、それを選手に伝えるのが仕事だからね」(阪神平野打撃コーチ)
「人間って、一生懸命やっている姿に心を打たれることが圧倒的に多いと思う。必死にやっていることにプラスして、すごいホームランだったり、すごいプレーだったりをすることで、伝えられることがある」(DeNA筒香)
「野球をすることで元気になってくれる人がいるなら、思い切ってプレーしていくだけ」(中日平田)
「よくても悪くても応援してくれる人たちのために、途中で崩れても投げやりになってはいけない。自分のためでもあるし、見にきてくれる人たちのためでもある」(日本ハム上沢)
元気よくプレーするから、見る人を元気にできる。
一生懸命なプレーは、自らを育てる。
「野球をすることで成長できた。周りも野球から感じるものがあると思います。だから、やりがいがありますし、責任もあります」(ヤクルト山田哲)
「野球を通して人間的に成長できる。やる方も、いろんな方に少しでも勇気とか感動とか、感じてもらえる。そういうことができるという責任は、常に持っています」(ヤクルト中村)
変わるのは、野球人だけにとどまらない。
「プレーだけじゃない。サインをする。写真を撮る。握手をする。それだけで何かが変わる。たった1枚のサインをするだけで夢を抱いてくれる」(オリックス・アルバース)
「野球は発信力がある。野球が好きじゃなくても、たまたまホームランを見てくれて、何かのきっかけになるかもしれない」(オリックス吉田正)
「野球があることで、いろんなことが起こっている。本当に、ただ感謝しかない。少しでも恩返しできるようにと思ってやっている」(日本ハム栗山監督)
「僕は野球の神様はいると思っている。努力をしていれば、全てではなくても、どこか必ず(自分に)返ってくると思う」(ソフトバンク甲斐)
巨人菅野は力説する。
「『野球の力』は『スポーツの力』の同意語。サッカーW杯が、これだけ盛り上がった。みんな普段からこんなにサッカーが好きだったの? と思うぐらい。僕もずっと見た。何かに熱中するということが人間の活力になる」
民族、言語、宗教、国家、年齢、性別。スポーツは、あらゆる差異を乗り越えた共通言語になれる。中日ガルシアも言う。
「スポーツは世界の人をつなぐ鎖のようなものだと思う。絆と言ってもいい」
熊本出身の中日荒木の言葉で締めたい。
「野球選手として心を込めて野球をすることです。今回の豪雨で被災された方、全員の力になれることはないと思う。ただ、1人でも2人でも力になれるなら、野球を心を込めてやりたい」