広島下水流昂外野手(30)が逆転サヨナラ2ランを放った。1点を勝ち越されて敗戦かと思われた10回、巨人守護神のマシソンをとらえて右翼席に運んだ。この日は西日本豪雨災害後初となるマツダスタジアムでの試合。初回には安部友裕内野手(29)が山口俊から2号3ラン。再昇格後初スタメンでの初安打が3カ月ぶりのアーチとなった。10-9。劇的な白星で広島に勇気を届けた。

 無心でバットを振り抜き、無心で走った。舞い上がった白球が右翼席に飛び込み、スタンドがドッと沸くも、二塁ベースを蹴った安部は打球の行方を再度確認するほど夢中だった。6月13日オリックス戦以来の先発出場にアドレナリンがあふれた。1回に好機で巡ってきた打席で、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らした。

 「得点圏でバッティングカウントだったので、ここしかないと! とにかく積極的に行きました」

 1点を先制した直後の1回2死一、二塁で飛び出した3カ月ぶりの2号3ランに、広報を通じて出されたコメントにも興奮ぶりがにじんだ。その後の打席では安打こそ出なかったが、絶妙な犠打を決めて、チャンスメークするつなぎの役割に徹した。

 ようやく出番が訪れた。開幕戦は7番三塁で先発出場。4月中旬まで2割台後半をキープしていた打率は4月下旬から下降線をたどり、1割7分9厘にまで落ち込んだ6月14日に出場選手登録を抹消された。順調なシーズンを送った昨季からいばらの道を歩く。結果が出ないいら立ちを抑えることができないときも。そんな態度を先輩選手から指摘されることもあった。

 レギュラーと期待されながら約1カ月、2軍で過ごした。1軍に合流した11日の練習ではシート打撃でジョンソンから三塁打、九里から二塁打と1軍のローテーション投手から長打を記録するも、即昇格はならず。開幕スタメンだった立場は厳しくなった。16日に出場したウエスタン・リーグ中日戦で安打を放ち、そこから1軍に招集された。

 再昇格後初安打となる1発は勝利につながらなかったものの、自身の復調のきっかけとなる1発にはなったはずだ。安部の状態が戻れば、打線のバリエーションは増える。チームにとっても安部の復調は大きな光。プロ11年目で歩むいばらの道を乗り越えた先にはきっと、さらに成長した姿があるはずだ。【前原淳】