西武が誇る山賊打線の真骨頂だ。ビジターでの楽天戦は、敗戦濃厚の9回から反撃を開始。1死満塁とし、1番秋山翔吾外野手(30)が逆転の22号満塁本塁打を放った。今季の楽天戦を19勝6敗と大きく勝ち越し、チームは10連勝。ソフトバンクも7連勝と負けないが、自力で優勝マジックを「5」に減らした。10年ぶりの歓喜へ、休むことなく歩を進める。

土俵際だからこそ、思い切りたたきにいった。2点を追う9回1死満塁。秋山は外寄り高めの直球を振り抜いた。舞い上がった打球は左中間席に吸い込まれた。決勝の22号満塁弾。「最高の流れで回ってきた。もし1点差だったら、違うバッティングをしないといけないですが、あそこは真っすぐが来るもんだと、思い切って振りにいきました」と力強くうなずいた。

この打席ばかりは、いつもの理詰めを気迫が上回った。「高めを打ったなという感覚はあったけど、コースは分からない」。配球、軌道などを元に緻密な戦略を立て、技術で仕留める-。普段の秋山からはなかなか聞けないひと言。リーグ制覇へカウントダウンに入り「ここまで来たら、もう調子が良かろうが悪かろうが。結果」。覚悟が、土壇場で決めたプロ初のグランドスラムにつながった。

「らしさ」も忘れていない。本塁打の1球前。150キロ直球をフルスイングし空を切った。「(楽天森原は)球持ちがよくて(上体を)前に出された分、差された。タイミングだけとって、強い球を前に飛ばせるように」と冷静に修正。そして、思い切って振ったのは「犠牲フライではダメなケース」とアウトカウントと点差を、しっかり考えての上だった。

初めて経験するマジックも「まとめては消えない。1試合1試合をしっかり戦うしかない」と受け止める。気持ちの変化を挙げるとすれば「10連勝という感覚ではない」ということ。優勝を争う中で1つ勝つ難しさ、重さを実感するからこそ、去来する感覚だった。

マジックを5に減らし、27日からは本拠地での2位ソフトバンク3連戦。最短Vは29日となったが「とにかく目の前の試合。ホームで決めることは、そう簡単ではない」と足元だけを見つめた。10連勝中の獅子と7連勝中のタカがぶつかる正念場。「自分の役割をやるだけ。変わらずにやっていきたい」。心は熱く、頭は冷静に。頼れるリードオフマンが、10年ぶりの頂点へ引き上げる。【佐竹実】