今季限りで退任する巨人高橋由伸監督(43)が、3年ぶりのファイナルステージへと導いた。信頼するエース菅野は無安打無得点を達成し、スタメンに戻した亀井は4回にダメ押しの2ランを放った。次の関門は3年間苦汁をなめ続けてきた王者広島との対戦。「ジャイアンツ・キリング」の完成へ、破竹の快進撃で突破する。

試合の主役は快挙を達成した菅野だったが、試合後の最大のヒーローは高橋監督だった。今季、神宮での最後の戦いを終え、ファンの待つ左翼席へ、あいさつへと歩む。「ヨ・シ・ノブ~! ヨ・シ・ノブ~!」。帽子を取り、秋の心地よい風を浴びながら、歓喜と愛情の詰まった声に応えていた。

就任から3年間で計210勝した。そのうち41勝を稼いでいるエースの快刀乱麻の投球に、これまでは「特に言うことがない」と端的に答えることも多かった。形容する言葉を探すのが難しそうだった。だが、今月に入って辞任が決まってから雰囲気が変わった。言葉に厚みが増した。この夜もそうだった。

高橋監督 この終盤に来ての投球はすごいよね。突き抜けたというか、力はあるから。いい悪いはその日の調子がある。この日もあったと思うけど、まったく感じさせない。文句のつけようのない結果を残し続けているのは、何と言っていいか、言葉が出ないよね。

すごみを表現するのは変わらず困難な作業だが、畏敬の念が強まっている。終盤に入り通常の中6日から中5、中5、中4、中4と間隔を詰め、なお結果を残す絶対的右腕に「負担は掛けているが、やってくれる投手と思っている」と懸命に賛辞を添えた。

ヤクルト戦は野球人生の節目の相手だった。プロ初出場も神宮で迎えた。現役最終年となった15年のCSファイナルは終戦の最後の打者となった。「ペナント最後の試合もヤクルト戦だったんだよね」。通算成績の最後の数字として残る一戦。「だけど、誰と対戦して、どんな結果か覚えていない。その時は現役を続けるつもりだったから」。15年10月4日、東京ドームで杉浦(現日本ハム)の前に二ゴロだった。記憶に残らない戦いだった。

監督として最後の一戦はヤクルト戦にはならなかった。史上最高の下克上「ジャイアンツ・キリング」の舞台は、苦難を味わわされた広島へと移る。「僕らは一番下ではないけど、チャレンジャー。今回の2試合と同じように、とにかく思い切ってぶつかっていきたい」。永遠に不滅の記憶に残る戦いを刻み続ける。【広重竜太郎】