ソフトバンク工藤公康監督(55)が執念の采配でサヨナラ勝ちを呼び込んだ。内川には10年以来8年ぶりの送りバントを命じ、先発千賀を5回2死二塁でモイネロに代え、守護神森は8回途中から投入して回またぎを命じた。気迫と総力戦で勝利をつかんだ。

悪いけどバントしてくれ-。4回だ。中村晃の中前2点適時打で一時逆転した直後の無死一、二塁。工藤監督は内川の右肩を抱いて、話した。希代の好打者にとって、10年の横浜(現DeNA)時代以来、ソフトバンク移籍後は初めての犠打だった。1球ボールを見送ると、しっかり投前に転がした。試合後の工藤監督は「内川を呼んで、悪いけどバントしてくれと。(決めた後)帽子を取ってありがとうと伝えた」と言った。

この日は2試合連続本塁打のデスパイネが左膝痛のため、ベンチを外れた。大砲不在の中、執念の作戦。決めた内川の笑顔に、ナインの士気は高まった。

継投でも、執念をみせた。早め早めに動いた。先発千賀を1点リードの5回2死二塁で交代させた。打者は左の丸。今季、開幕投手を任せ、エースとして13勝挙げた右腕よりも、左腕モイネロを選んだ。工藤監督は「(千賀が)制球に苦しんでいたので代えたが…。すみませんでした」。モイネロが丸に逆転2ランを浴びる最悪な結果にはなったが「今日は投手をつぎ込んでいく」と迷いはなかった。

8回2死からは加治屋ではなく、守護神森を早めに投入。スタンドもどよめく継投だったが、6回に本塁打を放った会沢を、森が見逃し三振に仕留めた。9回も、森はマウンドに立った。

ヤフオクドームでの日本シリーズは12連勝。工藤監督は「ファンのみなさんのおかげ。今年最後のヤフオクは勝って終わりたかった」と感謝した。

シーズン143試合、CS8試合、この日の日本シリーズ第5戦で今季156試合目となった。工藤監督は前日10月31日から、球場入りの時間を遅くした。これまでナイターは午前10時30分だったが、第4戦からは午後1時に替えた。前日は自宅周辺をジョギング、この日は熱い湯でじっくり半身浴をして大舞台に備えた。

工藤監督はお立ち台で「途中(継投)失敗もありピッチャーには申し訳ないという思いがあったが、リリーフ陣が本当によく投げてくれた。きっと日本一になります」と約束した。球団初の下克上日本一まで、あと1勝だ。【石橋隆雄】