矢野監督もホッとひと安心だ。阪神上本博紀内野手(32)がFA(フリーエージェント)申請期間最終日となった13日、今季取得した国内FA権を行使せず1年契約で残留することを表明した。FA宣言も視野に入れてギリギリまで熟考したが、新指揮官から直々に残留要請されたことも心に響き、決断した。左膝手術からのリハビリは順調。糸原らとの二塁レギュラー争いに割って入る。

スッキリ晴れやかな感情に浸っている暇は、なかった。鳴尾浜で練習に汗を流した後、残留決断を表明。上本は覚悟を決めた表情で球団、仲間、そしてファンへの思いを言葉に変えた。

「今年ケガをしたのもあったし、ケガ中のこういう状況でも応援してくれたり支えてくれた人たちのために、来年タイガースで頑張ろうと思いました」

今季、国内FA権を初取得。FA申請期間最終日まで熟考し、結論を出した。32歳。他球団の評価を聞いてみたいという気持ちが1ミリもなかったと言えば、ウソになる。それでも最後はFA権を行使せず残留する道を選択。「感謝」が決断を後押しした。

今年5月5日の中日戦で左膝を負傷し、「左膝前十字靱帯(じんたい)の再建術」を受けた。以降、長く地道なリハビリをサポートしてもらった恩を忘れてはいない。10月中旬には矢野監督から直々に「残ってほしい」と訴えられた。この日、上本は指揮官からの言葉も心に響いたかと問われると「もちろん」とうなずいた。

「今はしっかりリハビリして足を治して。監督も『持っているモノを出してくれればいい』と言ってくださったし、今まで通り全力でやっていきたい」

秋季キャンプ地の安芸にいた矢野監督には正午ごろ、電話で残留を報告した。指揮官は「右で足を使えるのはウチで言ったら、ポン(上本)以外ほんまに少ないもんね。ホッとしている。足を使えたり、体は小さいけど意外性というかパンチ力もあったり…。選択肢はすごく増える」と笑顔。「チーム内の競争もこれでまた厳しく、より高いレベルになる。大歓迎」と喜んだ上で「もちろんポン自身も競争にはなる」と付け加えることも忘れなかった。

すでにノックや打撃練習を再開し、左膝は来春キャンプスタートに間に合う見込みとなっている。糸原らとの激しい二塁レギュラー争いが予想されるが「それは毎年のことなので」。その並々ならぬ覚悟が、矢野阪神の底上げに一役買いそうだ。【佐井陽介】