16日の父の日を前に、巨人山口俊投手(31)が10年に亡くなった元力士「谷嵐」の久さん(享年58)の教えを胸に力投した。「日本生命セ・パ交流戦」の日本ハム戦で今季最長タイの8回を投げ、4安打9奪三振2失点(自責0)。122球の熱投でチームトップタイの6勝目を挙げた。打線は丸佳浩外野手(30)岡本和真内野手(22)の「マルオカコンビ」が今季3度目のアベックアーチを放つなど、11安打8得点。楽天戦が雨天中止となったセ首位の広島に、0・5ゲーム差に迫った。

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喜びより反省が先に口をついた。山口は試合後、帰りのバスへ乗り込む前に「完投したかったですけどね」とやや物足りない表情を隠さなかった。5回までに8点の援護をもらい、チームでは菅野に次ぐ2人目の完投が見えていた。だが今季最多タイの122球、8回で降板。日本ハム打線を2失点(自責0)に封じても、満足はなかった。

ただ、試合前の決めごとは守った。「チームが勝てるように試合をつくりたい」と長いイニングを投げることにこだわり、有言実行。6連戦の5戦目で救援陣の負担が増していた。交流戦から割合を増やしたスライダー、カーブで目先を変えた。9三振は全てフォークで空振り三振。自慢の直球と落ち球の効果が増し、狙いがはまった。

16日は父の日。振り返れば、元力士の父、久さんが男の生き方を伝えてくれた。「自分で決めて始めたことは最後までやり通せ」。小3から始めた野球で1番になるために、小5の時、毎日素振り100回以上と5キロのランニングを約束した。友だちと遊びに出かけても午後6時には帰宅。気づけば自宅近くの公園のグラウンドを20周以上走っていた。「おやじはとにかく厳しかった。最初は嫌々やってたけど、自然と『やらないと』って気持ちになった」。小学校卒業まで2年間、1度も怠らなかった。

だからこそ、19年後の今、幼心に芽生えた教訓が染みてくる。「何をするにしても、つらいと思ってやるからつらいだけで、繰り返せば当たり前になる」。18歳で飛び込んだプロの世界で、てっぺんをとると決めた。苦しい時に浮かんでくるのは、父の言葉だった。

3、4月は4勝で月間MVPを受賞も5月は未勝利。それでもチームで唯一開幕からローテを守り、6月は3戦2勝と本来の姿を取り戻してきた。「目の前の試合をしっかり勝つだけです」と言った山口の大きな背中が、一段と大きく見えた。【桑原幹久】