「もう1人の今永」が、セ界最高峰の戦いを制した。DeNA今永昇太投手(25)が、タイトル争いを繰り広げる巨人山口俊に投げ勝った。140球完封勝利から中6日。6回115球の熱投で2安打無失点に抑えた。これで山口に並び、リーグトップの12勝とし、2・38の防御率、155個の奪三振数でもリーグ1位の数字をマーク。「偽りの自分」で、投手3冠に躍り出た。

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もう1人の今永は笑っていた。1点リードの4回。先頭の坂本勇に二塁打を許したが、表情はリラックスしていた。2死二塁としてから、四球を与えてもだ。焦る様子などない。ハマのエースは確かにピンチを迎えていた。だが、今永の横顔には余裕さえ漂っていた。2死一、二塁でゲレーロ。初球から変化球を4球続け、打ち気を交わした。カウント2-2からの6球目。外角ギリギリに147キロ直球を収め、空振り三振に仕留めると、笑顔から一転。別の自分が現れた。何度もガッツポーズを決め、雄たけびを挙げた。

今永 マウンドにいるのは、偽りの自分なのかもしれない。表情から読み取らせないようにしている。相手にすきを見せてはいけないので。

あえて? の“多重人格戦法”も、まだ完璧ではないと言う。1点リードの5回には2死走者なし。投手・山口に対して、初球から3球続けたボールとし、カウントを苦しくした。その直後、自身へのいら立ちから、ロジンをマウンドに投げつけた。「ああいうところが駄目。顔に出てしまっていては、相手にすきを突かれてしまう」と今永は別の今永を責めた。

もう1人の自分が言っていた。「前回やられているので、やり返したいと思っていた」。今季2度目となった山口との投げ合い。前回(7月5日)は、6回5安打6失点で負けた。あの時は「俊さんに負けて、巨人に負けた」。この日の試合前の全体ミーティングでラミレス監督から「6回まで、きっちり投げてくれ」と言われた。自身のリベンジの思い、指揮官からの言葉は、マウンドに上がる前、心の奥底にしまった。気合満点の「今永A」から、笑顔の「今永B」にチェンジ。雪辱を果たした。

「偽りの自分」が、投手3冠に躍り出た。キャリアハイとなる12勝は、球団左腕では98年以来21年ぶりの数字。17年にマークした11勝を超えたが「もっと、もっと突き抜けていかないといけない。2年前は、2桁を取って、落ち着いてしまっていた」と高みを目指す。「もう一波乱を起こさないと」。逆転Vへ、2つの顔の今永が横浜をけん引する。【栗田尚樹】

▽DeNA三浦投手コーチ(今永について)「スライダーでカウントを取れていたし、ボールも低めに集めて、我慢して、我慢してよく投げた」