最大8・5ゲーム差をひっくり返し、西武がついに首位に立った。辻発彦監督(60)が強気のタクトで3回の先制機を演出。首位攻防戦最終ラウンドの勝利に導いた。

試合前にはもう1人の“辻監督”も登場し、チームの士気を高めるゲキを飛ばした。リーグ連覇へ向けて、ムードは最高潮。勝負師がラストスパートを仕掛ける。

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強攻策に出た。1点差勝負の様相を呈した投手戦。それでも、辻監督は序盤に勝負をかけた。3回の先頭山川が、難敵の高橋礼からこの試合初安打を打つと、次打者木村に犠打のサインは、なし。送って1点を奪うことよりも、打って攻略することを選んだ。「今日の木村はよかったからね」。その言葉通り、連打で広げたチャンス。突破口を采配で切り開いた。

首位攻防の嫌な緊張感を、試合前にもう1人の指揮官が振り払った。ベンチ前での円陣で、熊代がお面をかぶり扮(ふん)する“辻監督”が声を出す。「お前たち、去年の俺の言葉を忘れてないか!?」。クライマックスシリーズファイナルで敗れた際、涙ながら言った言葉。「『悔しいです!』。今は追われる立場じゃなくて、追う立場にいる。気楽にいつも通りやればいい!」。昨季グッズ販売されたお面を広報に頼んで取り寄せ、げきを飛ばした。辻監督は試合後に「お面が効いたな」と、こっそりと陰の立役者をたたえた。首位浮上のベンチワークは、最後まで細部にわたって行われた。

真夏の猛追でようやく鷹をとらえた。そのサインはちょうど1カ月前、同監督から出ていた。8月11日ロッテ戦で不調の山川に代えて中村を今季初めて4番に配置転換。「(山川の復調を)ずっと粘っていたけど」と決断。その打線組み替えが功を奏し、1カ月で首位浮上。昨季とは違う姿の山賊打線が終盤にきて破壊力を見せている。ブルペン陣も平井、増田を軸に、小川が加わり若手の平良ら、整備が進んだ。終盤にかけて、接戦をモノにできるチームを作りあげた。

残り13試合。「ベンチはいつもと変わらず、元気を出してやっていた。今日勝てたことがうれしい。首位といっても首位じゃない。負け数があるから。まだまだだと思います」。追われる立場になっても、あの悔しさがある限り、変わらず頂点まで走り抜ける。【栗田成芳】