「野球小僧」が帰ってきた。今季限りで現役を引退したイチロー氏(46=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の草野球チーム「KOBE CHIBEN」の初戦が1日、ほっともっとフィールド神戸で行われた。「9番投手」で先発し、智弁和歌山の教職員チームを相手に131球の完封。打っても3安打を放ち「めちゃくちゃ楽しかった。来年もやりたい」と笑顔を見せた。

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「めちゃくちゃ楽しかったです! 来年もやりたいですね。このへん(左ふくらはぎ)がぴくぴくしてるけど、肩、肘は全然問題ない。まだいけますよ」

9回131球を投げ、被安打6、16奪三振の完封勝利を収めたイチロー氏は額に汗をびっしょり浮かべながら笑顔で話した。

NPB、メジャーと野球の最高峰で打撃記録を塗り替え、プロとして1つの頂点に立った男の“復活”の舞台はまさかの草野球だった。今年3月の引退会見で「今後は草野球をやってみたい」などと話していた。実際に現役時代から自主トレを手伝っている神戸の友人たちとチームを結成。かつての本拠地では00年10月13日以来となる試合を実現させた。

相手はイチロー氏が「大ファン」だという智弁和歌山の教職員チーム。ほっともっと神戸で行われた高校野球の秋季大会を観戦した際に、応援団のブラスバンドに感激したことをきっかけに同校との親交が始まったという。

試合は「9番投手」で出場。プロ時代とは違い、背番号1をつけた。軟式球ながらストレート、スライダー、カットボールを交えての投球。6安打は許したものの失点は許さなかった。途中、セットポジションで球をこぼし、ボークをおかす場面もあったが「ワザとじゃないですよ。ヒットも普通に打たれた」。

打者としても楽しんだ。2回は四球。4回は一塁を強襲し、球が転がる間に三塁まで到達した。5回の捕ゴロを挟み、7回には二塁内野安打、そして8回には完璧にとらえた右前打をマーク。「遅い球を打つのは難しいんですよ」。そう言いながらもさすがの4打数3安打1四球だった。

この日までに4度の全体練習を行った。その他、イチロー氏個人での投げ込みも行った。「遊びでやっているんじゃないんで」と強調する通りの取り組み方だ。そこにはイチロー氏ならではの野球への“見方”がある。

引退後、中学時代まで親しんだ軟式野球の面白さ、難しさにあらためて気付いたという。「飛ばないし、転がりも違う。軟球は難しいんです。だから野球のレベルアップにいい。体への負担も少ないし。中学生まで軟式でやるのは理にかなっていると思うんですよ」

高校野球での球数制限が決定するなど野球を巡る環境が変わっている中、イチロー氏ならではの意見があるようだ。そして何よりも「野球は楽しい」。そんなメッセージを込めての「草野球デビュー」だ。【編集委員・高原寿夫】