学童野球(小学生の軟式野球)が危ない!? 前慶応高校野球部監督で、現在は全日本軟式野球連盟委員の上田誠さん(62)は警鐘を鳴らしています。子どもの野球人口は減る一方なのに、試合数は増えています。子どもの体に負担がかかりすぎているのではないでしょうか。【取材・構成=古川真弥】

にわかには信じ難い。上田さんが教えてくれた。

上田さん(以下、上田) 毎年、神奈川県内だけで約20人の学童野球の子どもたちが、トミー・ジョンなどの手術を受けています。

小学生が、だ。しかも、硬式よりも負担が少ないはずの軟式野球で、だ。背景には、前回紹介した試合数増加がある。年間230試合なんてチームもあるのが現実。さらに、子どもの野球人口の減少が著しい。全日本野球協会によると、硬式、軟式合わせた小中学生の野球人口は、07年の66万3560人が、16年は48万9648人と、実に26・2%減。選手は減っているのに試合数が増えれば、当然、1人にかかる負担は増える。子どもの時からメスを入れるのもあり得る話だ。

危機的なのは、中学生の軟式。中学校の部活が主体だが、中体連の軟式野球部員は減少著しい。同ホームページに掲載されている「加盟校調査」で、すぐに確認できる。09年の野球部員総数は男女計30万8386人だった。それが、10年後の19年は、速報値で16万7475人と、ほぼ半減。ちなみに、サッカーは09年22万7380人が、19年は19万3602人と14・9%減。卓球は09年23万9226人が、19年は26万2550人に増えている。卓球は女子の数も多いとはいえ、軟式野球の減り具合は、単なる少子化では片付けられないのは明らかだ。

上田さんが指摘するのは、中学軟式野球の主な供給源である学童野球が抱える問題だ。冒頭で紹介したように、小学生の時からメスを入れた子どもが、中学でも野球を続けたいと思うだろうか。問題の土壌には、硬式との違いもある。

上田 ボーイズやリトルリーグは、各連盟で球数を規制しているんです。

ボーイズの場合、小学生は1日6イニングまでで、変化球は禁止(中学生は7イニングまで)。軟式より負担が大きいと言われる硬式だからこそ、自ら規制を敷いているのかも知れない。では、本来は負担が軽いはずの軟式で、なぜ1県だけで年間約20人もの子どもたちが手術を受けることになるのか。組織的な問題があるという。

上田 全日本軟式野球連盟が統括組織としてあるのですが…。そこに還暦野球、女子野球などいろいろな連盟があり、少年野球としては独立していないのです。少年野球は、各都道府県連盟の中に「少年部(中学生)」「学童部(小学生)」があり、そこにチームが所属しています。しかも、各県連盟の下に各支部があります。神奈川県は、川崎市何々区、藤沢市、鎌倉市、小田原市など、全部で54支部です。

文字にすると分かりづらいかも知れない。要は、学童野球だけを直接統括する全国組織はなく、細分化されすぎているということ。何を意味するかというと…。

上田 結局、全国で球数制限をやりましょう、となっても、新しいルールを徹底させる会議を招集するのも難しい。やっと集まって、ガイドラインを考えてきて下さいとなっても、各県に戻ったら「うちの県はいいや」「うちの支部はいいや」となってしまう。バラバラなんです。

賛否はあれど、日本高野連が「1週間500球」と定めた以上、来春からは恐らく、どの高校もルールを順守するはずだ。それが、学童野球では難しい。組織力の問題がある。結果、不幸になるのは、手術を受けることになる子どもたちだ。

現状を変えたいと、上田さんは「神奈川学童野球指導者セミナー」を立ち上げた。19日に第3回を迎える。県内の学童野球チームに関わる指導者、連盟役員、保護者、さらに医師、理学療法士、アスレチックトレーナーなどを対象に実施。スポーツ医師、理学療法士などの専門家、さらに元プロ野球選手を呼び、「少年期のスポーツ障害を予防する」をテーマにさまざまな講演をしてもらう。

上田 セミナーに来てくださる指導者の方のチームは、みんな楽しそうにやってるんです。意識があるから、セミナーにも来ていただけるのかな。

決して楽観視できない学童野球の現実。このままでは日本の野球界が危ない。どんな大スターも、少年野球から始まった。上田さんの取り組みが、日本の野球界を支える力へとつながることを願う。(終わり)

◆上田誠(うえだ・まこと)1957年(昭32)8月19日生まれ。神奈川県茅ケ崎市出身。湘南、慶大で投手、外野手。大学卒業後は英語教師に。桐蔭学園野球部副部長、厚木東監督、慶応中等部副部長を経て、91年に慶応高校監督に就任。98年には米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)野球部にコーチとして同行。15年夏まで甲子園4回出場。19年に日本高野連育成功労賞。現在は慶大コーチも務める。