日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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予期していたこととはいえ、プロ野球の開幕延期は衝撃的だった。降って湧いた災いを「国難」と表現した斉藤コミッショナーは「4月中の開幕を目指したい」と語った。だが明確なメドが立ったわけではない。第2回新型コロナウイルス対策連絡会議を終えた専門家チーム座長で、東北医科薬科大学医学部感染症学教室特任教授の賀来満夫氏も、チーム、球場のリスク管理の徹底を強調した上で「(再開は)総合的に判断したい」と語るにとどめた。

ただ、斉藤コミッショナー、セ・パ両リーグ代表者は、開幕をずらしてでも「全143試合」維持に固執することで一致したという。延期された試合を埋める現実的な方策は、10月24日からのCS(クライマックスシリーズ)期間の約2週間を利用することではないか。今年はCSを開催せず、以前のようにリーグ優勝チームが日本シリーズに出る形にしてはどうだろうか。

またこの際、CSを消滅させるタイミングではないかとも考える。下位球団が上位にのし上がっていくさまは「下克上」ともてはやされる。だが、複雑で恥ずかしさを感じている選手も少なくない。何より、プロ野球界は、リーグ優勝の尊厳という価値観が損なわれる正論を感じながらも看過している。

実際、テレビ局も10月は番組の改編時期で中継しにくい。さらにCS圏内の当該チームが決まるのが遅れるため、スポンサーにも興味を持たれにくい。CS制導入で多くのファンも駆け付けるなど消化試合が減り、一番喜んでいるのは経営者に他ならない。

開幕のXデーが決まるには、今しばらく時間がかかるだろう。ビジネス主義の斉藤コミッショナーをはじめ、球団経営者たちは、これを機に、野球協約にある「文化的公共財」とうたわれ、野球が国民的スポーツである意義を見つめ直してはいかがだろうか。