本塁打ゼロでも、バースになれる可能性はある!

阪神新外国人のジャスティン・ボーア内野手(31=エンゼルス)は、来日後ノーアーチでオープン戦を終え、メジャー92本塁打の長打力は影を潜めている。

日刊スポーツ評論家で元阪神監督の真弓明信氏(66)が、4番候補のフォームを分析。3冠王を2度獲得した最強助っ人との共通点を挙げ、バースになるための「条件」も掲げた。【取材・構成=田口真一郎】

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ボーアはオープン戦で長打力を発揮できなかったが、打撃フォームを見る限りは、決して悪くない。自然体に構え、特徴的なスタンスではない。動きだしにおいて、<2>から<3>で1度バットを下げて、ヒッチしている。力みを抜くために、こういう動きをするのだが、リスクはある。この写真のように、<4>から<5>へとトップの位置へしっかりとグリップが上がっていけばいいが、下がったまま打ちにいけば、アッパースイングになる。ダウンスイング時のようにボールに対して最短距離でいけないので、差し込まれたり、ゴロになり、打球が上がらなくなる。そうなると、なかなか打てないだろう。

ボーアの長所は体重移動にある。<3>でしっかりと軸足に乗せて、<5>で右足を地面につける。この瞬間、右足にすべての体重を移してしまうと、いわゆる突っ込む状態になる。軸足にウエートを残し過ぎても、投球に食い込まれてしまい、ボールは飛ばなくなる。その点、ボーアはいいバランスで体重移動ができている。頭の位置も動いていないので、多少、体勢を崩されても、対応できる要素はある。上体に頼る外国人が多い中、これほど下半身の移動ができるというのは、悪くない。

現役時代に同僚だったバースの良さというのも、体重移動にあった。写真<4>のテークバックから<8>まで下半身主導で、ボールをとらえにいっている。それでいて、速球で食い込まれそうになれば、少し体重を戻して回転する。半速球や変化球の時はそのまま前方向に体重を乗せながら、対応する。タイミングをズラされた時に、下半身で調整するのが一番簡単だ。上体で合わせようとすると、頭や肩が突っ込む形になり、打撃の調子が悪くなる。ボーアがオープン戦で結果を残せなかったのは、キャンプからの疲れがあったのかもしれない。守備練習を多めに受けて、下半身ができてくると、調子は上がってくる。現時点ではそれほど心配する必要はない。

もちろん、打撃フォームがいいからといって、打てるとは限らない。相手投手も弱点を突き、タイミングを外そうとする。バースが最も優れていたのは、「切り替え」ができたことだ。インコースに来ないな、と思えば、アウトコースを流し打ち、浜風に乗せた。逆に内角球が増え始めると、そこを狙ってやろうか、と内角を打つようになる。そういうことができたから、あれだけ本塁打を打てた。気持ちを切り替えて、いかにタイミングを合わせて待てるか。慣れない環境で結果を残すのは、それが大事なポイントになる。

もっともバースの来日1年目はそれほど期待されていなかった。マウイの春季キャンプでは打球は飛ばず、大したことはなかった。同じ1年目のストローターのほうが飛距離を出していた。それが日本で将棋をやったり、一緒に「飲み屋」で遊んだり、柔軟性があった。来日当初はマジメだったけどね(笑い)。そういう適応力があれば、ボーアも成績を残すことができるだろう。

○…真弓氏はボーアの打順にも言及した。「外国人を4番にあてはめようとするが、いきなり成功する確率は低い。初めて日本の野球を経験する中で、最も警戒される打席に立たせても、なかなか打てない。オープン戦では大山に成長が見られ、昨年4番で開幕から起用したことが今季に生きるはずだ。現時点で言えば、大山を4番に据えてもいい。そうなれば、外国人を5番以降に置くことができ、日本で成功する確率も高くなる。今後の練習試合でボーアが打てば、その時に4番を検討すればいい」。能力を引き出すために、起用法も鍵を握りそうだ。

◆バースの来日1年目 阪神に加わった83年当時、各球団の外国人保有は3人まで。外野手のアレン、ストローターと1軍出場外国枠2を争った。オープン戦の死球で、開幕1軍ならず。7月にオルセン投手が入団し解雇の危機に陥ったが、ストローターが故障で退団し辛うじて残留した。前半戦54試合は9本塁打、打率2割6分6厘と低空飛行も、球宴後に大爆発。59試合で26本塁打、3割3厘を記録した。計35本塁打はチーム最多で、山本浩二(広島)大島康徳(中日)36本塁打に次ぎリーグ3位。85年の大爆発の布石を打った。