遅れてきた左腕が、負けられない「伝統の一戦」で最高の投球を見せた。阪神高橋遥人投手(25)が6者連続を含む13奪三振の快投で、4年目でプロ初完封勝利を挙げた。

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高橋は今季、長いリハビリを乗り越えたが、その途中で恩師に本音をもらしていた。母校・亜大の生田勉監督(55)に電話をかけた。「ボールを投げるのがイヤです」。連絡が来るなんて、追い込まれているのだろう。弱気な声を聞いた恩師は、苦しむ姿を感じ取った。「マウンドに立つのが、怖いみたいでした。大学時代も弱気になった姿をずっと見てきた。親にとって、子どもはいつまでも子どもです」。優しい言葉が必要かもと思いつつ、あえてゲキを飛ばした。

この日、生田監督は、寮内のサウナに設置したテレビで力投を見守っていた。「サウナに入ったのが、糸原選手がホームランを打ったくらい。そこから見続けて結局、約1時間入り続けました。2キロやせました(笑い)」。そして試合後、報告の電話がかかってきた。高橋はうれしそうだった。「完封しました! 次は英恵ちゃんを招待します」。英恵(はなえ)さんは生田監督の長女で、生まれつき知的障がいがある。大学時代から交流を持ち、いつもテレビ越しに「遥人さん」と応援してくれる。やっと明るい声で宣言。心身ともに完全復活した瞬間だった。【磯綾乃】