エースの意地を見た。オリックス山本由伸投手(23)は、8回終了時でプロ入り最多タイの126球に達していた。ベンチに戻ると、高山投手コーチに手を差し伸べられた。お疲れさまの意味が込められた握手…。ただ、背番号18は数秒間ぎゅうっと握ったまま、離さなかった。

「『交代しよう』となった。8回も調子が結構上がっていたので『もう1回行ける』と。本当は8回に上がる前に高山さんとトイレで会って、『あと2回行きますよ』と冗談で言ったら、あと1回と言われていた」

8回裏の攻撃中も、ブルペン陣は誰1人、キャッチボールもしなかった。エースの志願に、中嶋監督も続投を決断した。2勝3敗と後がない状況で任された第6戦の先発マウンド。山本も「もう、ここまで来たら日本一を取るしかない」と気合十分だった。その9回ラストイニングを3人で斬り、プロの最多141球。「今季の中で、一番気持ちのこもった投球ができた」。気温7度、白い吐息がこぼれる極寒の神戸で、これぞエースの熱投を見せ、ファンの心を熱くした。

野望は日本一のピッチャーだ。「自分が投げる日は全部勝ちたい。目標は全勝ですね。(13年に)楽天の田中さんが24勝。あんな偉大な方が現実にいらっしゃるなら僕もそうなりたい」。完全無欠のエースを目指し、鍛錬を重ねている。

山本の力投で、今季のプロ野球で初の延長戦に突入。「絶対に勝ちたかった」とベンチ最前列で声を張った。「真剣勝負を楽しめた。ただ楽しいというだけじゃない。集中したマウンド、本当に楽しかった。ここから強いチームになっていけたらと思います」。日本一は逃したが「山本の141球」は、野球ファンの記憶に刻まれた。22年シーズン、無双の沢村賞右腕が新たな高みを目指す。【真柴健】