ロッテ佐々木朗希投手(20)に質問した。

「この1年間、いろいろな試合に投げましたが、一番自分らしい投球と感じたのはどの試合ですか?」

2年前も同じ質問をした。19年10月2日、岩手・大船渡市内で行われた進路志望表明会見でのこと。大船渡高3年春に163キロをマークし、以降は学校側から強い報道規制があった。会見の趣旨とは違ったが、貴重な機会なので尋ねた。即答だった。

「3月の末にやった作新学院だと思います」

同年3月31日、高校2年生最後の日に作新学院(栃木)との練習試合で、年明け以降初めて実戦登板した。3回を投げ1安打6奪三振。名門を圧倒した。わずか数日前に初めてブルペン入りしたばかりなのに、この日の最速は155キロ。直球平均球速も150・6キロ。肌寒い中、ネット裏に集結したスカウト陣やファンたちを興奮させた。

なぜその試合を選んだのか、続けて理由を尋ねた。

「初登板だったんですけど、しっかり自分の思うようにボールをコントロールできたりとか、満足いく形で投げられたと思っています」

確かにその試合はストライク率が73・9パーセント。1年間で公開された実戦登板15試合のうち、2番目に高い数値だった。とりわけ、本人が「僕の中では特に時間がかかる」というスライダーが面白いようにコーナーに決まり、ネット裏をうならせ続けた。私も15試合全てを取材したが、作新学院戦がベストピッチというのは納得できた。

あれから2年。肉体強化に終始した昨季を経て、今年は21試合に投げた。同じ質問したら、どんな返答が来るのだろう。思い返すように、ちょっとだけ上を向いた後に切り出した。

「えー…、一番はあんまりないですね」

今回は質問を重ねなくても言葉を続けた。

「(シーズン)後半の方はすごく自分の中で納得いくボールを投げられた時もありましたし、前半よりもイニングが投げられて、後半は全体的に自分の中で良かったかなと思います」

確かに後半戦は比較が難しいほど、安定したパフォーマンスだった。7試合中4試合でストライク率7割超。CS登板後には井口監督が「エースに近い活躍」とたたえるほどだった。

せっかくなので、勝敗や試合の重要性を抜きに、個人的にベストピッチと感じた試合を挙げたい。8月3日、エキシビションマッチの中日戦(バンテリンドーム)。5回を1安打4奪三振。試合後には「まっすぐの指のかかりは良かったと思いますし、甘いところにいってもヒットにされず、打ち取ることができて良かったかなと思います」と話していた。

後半戦の好投続きに「慣れ」を挙げている。それを感じ始めた時期を「エキシビション中から明けにかけて」と証言する。この名古屋の試合と一致する。中日戦での直球の空振り率17・3パーセントはプロ入り後最高値で、最速も158キロをマーク。詰まった打球も目立った。場を完全に支配し、張り詰めるような空気を感じた。「いつ160キロの速報記事を書かなきゃいけないのか」という緊張感も含めて…。

なお、その試合は無観客で行われた。テレビ中継やネット配信もなし。五輪期間のためか取材記者も少なく、目撃者はごくごく少数に限られた。来季はぜひ大勢のファンの前で、衝撃の投球を何度も。【ロッテ担当 金子真仁】