<阪神6-5ヤクルト>◇30日◇甲子園

 なんと、今季の甲子園1号が、劇的なサヨナラ弾となった。決めたのは新井だ。同点の9回に先頭で打席に入り、左中間スタンドにたたきこんだ。4月27日の巨人戦で、クルーンからサヨナラ押し出しを選んだばかり。これで阪神は4月を終えて19勝7敗1分けで、貯金12は球団史上最多。最高の形で5月戦線に突入する。

 こぶしを突き上げた。「行け」「入れ」。叫びながら走った。黄色一色に染まる左中間スタンドに白球が吸い込まれるのを見届けると、大歓声の中、力いっぱい飛びはね、喜びを爆発させた。

 新井

 とりあえず塁に出ようと思っていた。ちょっとつまり気味だったんで、頼むから入ってくれと思って走りました。もう何と言っていいか。これだけのファンの皆さんに勇気のわく応援をもらって、最高の結果が出て本当にうれしい。

 先頭で回ってきた9回裏。ヤクルト松岡のカウント2-2からの5球目だった。真ん中に甘く入ったフォークをフルスイングした。浜風に乗った打球は、センター左寄りに着弾する今季2号。チーム甲子園1号は、今年2度目のサヨナラをもたらす輝かしい1発だ。

 新井

 昨日負けてて、試合前のミーティングでも連敗は避けようと話していた。本塁打もいつか出るだろうと思っていた。最後に僕が打ったけど、チーム全員の力だと思います。

 三塁を回ると、ヘルメットを脱ぎ捨て、ナインの待ち受ける本塁上の輪にジャンプして飛び込んだ。矢野には耳元で「ありがとう」とささやかれた。もみくちゃにされ、下柳には地面を引きずり回された。手荒い祝福が最高にうれしかった。ベンチでは、兄貴として慕う金本や移籍後、何かと気を掛けてくれた同級生の赤星、そして岡田監督からもねぎらいの言葉をもらった。あごに流れる汗をぬぐうのさえ忘れていた。

 4月11日の横浜戦(横浜)。FAで阪神に移籍して12試合目の公式戦の後、迷いが吹っ切れた。同点だった6回、先頭村田に対して、先発安藤はボールが先行。新井は一声掛けようとしたが、結局はちゅうちょした。直後に村田が二塁打。その後、相川に決勝タイムリーを打たれ、チームは敗戦した。

 新井

 僕がマウンドに行ったからといって、打たれなくなるわけじゃないけど、新入りとか関係なく、遠慮していちゃだめだと思った。

 この日も、勝利に向けて一丸となるチームメートの必死な姿を目の当たりにし、燃えないわけにはいかなかった。4安打2打点の大活躍。クラブハウスに引きあげる際には「今日はノーコメントでいいですか?」とジョークまで飛び出した。

 岡田監督は「まあ、この風だし、打つなら新井だと思っていた。右打者が打ったのはうれしいよ」と笑顔にオンパレード。「甲子園は本塁打が出ないけど、それは相手も一緒。ホームの戦い方をすればいい」。

 これで新井は敗戦の翌日の7試合中、6試合で打点を記録した。シビアな場面でこそ、新井は存在感を見せつける。【福岡吉央】