<ソフトバンク2-15楽天>◇29日◇福岡ヤフードーム

 ヒット、ヒットの“大合唱”。楽天が、29日に73歳となった野村克也監督にバースデー白星をプレゼントした。今季最多となる15得点でソフトバンクに快勝。主砲・山崎武司内野手(39)が2打席連続のアーチで口火を切ると、球団新記録の20安打の猛攻で連勝、貯金を2とした。エース岩隈久志投手(27)が7回2安打無失点でハーラーダービートップを独走する12勝目をマーク。試合後、ナインから「ハッピーバースデー」の大合唱で祝福され、指揮官は「優勝を目指して頑張ろう」と、高らかにあいさつした。

 “野村チルドレン”の野太い声が、照明を落としたベンチ裏サロンで響いた。CDラジカセから流れる音楽とともに大合唱が始まった。「ハッピバースデー♪トゥー♪ユー♪

 ハッピバースデー

 ディア

 野村さ~ん」。ナインが内緒で用意したケーキを囲んで、異例の球場パーティー。その中心に野村監督がいた。

 野村監督

 監督を二十数年やっていて、こんなに祝ってもらったのは初めて。非常にうれしい。だが、今日の勝ちが何よりのプレゼントだ。ただし、まだまだ目標は先にある。日々1戦1戦、優勝を目指して頑張っていきましょう。

 孝行息子たちと秋に再び宴(うたげ)をしたい-。その思いを73歳の監督は、誓い合うように宣言した。

 球団最多の18得点には及ばなかったものの、球団新の20安打、今季最多15得点の圧勝。現役、監督時代を通じてもバースデーでは最多得点だ。「いい誕生日をさせてもらったよ。言うことありません」。そう、報道陣に笑顔で話した直後の粋な演出で、さらに喜びは深まった。

 “パーティー”の幕を開けたのは、主砲の予告弾だった。2回無死一塁から山崎武が左越えに78打席ぶりの11号2ランを放った。「力みを抜いて、去年やっていたことをやろうと思ったら、はまってくれたよ」としてやったりだった。4回にも右中間に2打席連発の12号ソロを放り込んだ。「1番いいプレゼントをあげられたよ。監督も喜んでたからね」。山崎武は沙知代夫人とも電話をする間柄で「監督を男にして」とねだられている。26日には祝福弾を予告。不振に苦しみながらも実現してみせた。

 監督直伝の読みが生きていた。28日は、先発大場の球威に押し負けた。試合前は「大場の直球に振り遅れているようじゃダメ。仙台に帰ってから頑張ろうかな」と復調の気配すらなかった。それでも昨年5月2日にも2打席連続アーチを放った和田から、いずれも初球の球種を読み切り狙い打った。「もうちょっと打たないと。去年の本塁打王がこんなんじゃ格好悪いよね」と山崎武は照れ笑い。“チルドレンの長男”からのプレゼントに、野村監督は「山崎が火をつけた。見事なもんだ、2発とも。3本目狙ってこいって言ったら『狙ってきます』って言ってたよ。まあでもまだまだ未熟だな」とニヤリと笑った。

 最高のバースデーは“ノムさん”だからこそやって来た。試合前、「世界一の幸せ者だな。健康だし、好きなことを仕事にして」と人生を振り返った。73年分の重みある言葉1つ1つを心に刻んだ選手は、自然と集まりパーティーを開くことになった。山崎武は「だれがやろうと言ったわけじゃなかった。みんなで歌ったのはおれも初めてだよ。自然とそうなるのは監督の人間性、カリスマ性だと思うよ」と言う。和を重んじる監督の誕生日を、自然と選手が集い祝う。野村イズムの浸透の結晶でもあった。もちろん真の結晶は、この日息子たちと誓い合ったフィナーレ、愛弟子たちの手で宙に舞うことしかない。【小松正明】