<楽天4-0ロッテ>◇2日◇Kスタ宮城

 野村楽天に待望のサウスポーの新星が現れた。3年目の片山博視投手(21)がロッテを3安打に完封して初勝利を挙げ、チームは3位に浮上した。軟投派で、公称191センチの長身から投げおろす直球は角度があり、スライダーなどの変化球も切れた。楽天の左腕先発投手の勝利は昨年4月3日日本ハム戦の有銘以来1年3カ月ぶり。左投手不足をぼやいていた野村監督だが、夏の勝負どころへ向け、大きな戦力を得た。

 救世主。そんな大げさな形容の似合わない、少年の笑顔がマウンドで輝いた。プロ2度目の先発マウンドで本拠Kスタ宮城では初先発。9回2死三塁、最後の打者・今江を遊ゴロに打ち取った。フェルナンデスからウイニングボールを受け取ると、顔いっぱいに笑みが広がった。初勝利に沸くナインの背後に完封を示すスコアボードが白く光った。「まだ実感がわかないです。初勝利が完封?

 最高ですね」とまた笑った。

 逃げない。その一言を胸に、ロッテ打線に向かっていった。「投手の第1条件は強靱(きょうじん)な精神力。片山は持っているように感じる」と野村監督に言わせる左腕は、期待通りの投球を見せた。6回だ。四球と安打で1死一、三塁のピンチで迎えるのはベニー、ズレータと強打の右打者。だが、臆(おく)することなく2者連続空振り三振に仕留めた。ズレータには初球の外直球を空振りさせ、2球目内角をえぐるスライダーで追い込み、3球目に外のシュートでフィニッシュを決めた。

 続投指令にも逃げなかった。7回を抑えると、ベンチ裏のトイレに行った。隣で用を足す野村監督から「行けるか?」と問われると、直立不動で「行きます」と即答。紀藤投手コーチは「完投したことで、次からこのスタミナが体に染みつくんだ」と、今後の完投能力にも期待を寄せた。

 待望の先発左腕の白星に、野村監督の声も弾む。この日、淡路島から駆けつけた両親にも親孝行だったが、監督にとっても孝行息子の誕生だ。「ナイスゲーム!

 よく踏ん張ってくれた。あの子の真っすぐはスライスする、いわゆる『真っスラ』なんだ。右打者が詰まるのは、それ」と長所を解説した。先発左腕の白星は昨年4月3日の有銘以来。背番号は、あの阪神の江夏と同じ「28」。「楽天の江夏ですね?」と聞かれ「まあ、江夏とは、タイプが違うがな」と賛同こそしないが、うれしそうだった。

 1年目はヒジの故障もあり130キロも出なかった。この日は9回でも140キロをマーク。「1軍で勝ちたい気持ちでやってきた。この3年間は、あっという間でした」と振り返った。

 ここまでは、18センチ小さい先輩の背中を追ってきた。春季キャンプから、ルーキー長谷部の体の使い方、制球に驚かされた。「やっぱりジャパン(の選手)は違いますね」。2軍で先発を任され白星を重ねてきても、自信はつかなかった。「僕はまだまだです。長谷部さんと同じ年になった時、今の長谷部さんよりうまくなっていればいいんです」。常に控えめに答えてきたが、今季初めて1軍相手に結果を出し、少しずつ自信は芽生えた。雲の上と思っていた2歳上の大物ルーキーを抜き去り、チームもソフトバンクを抜いて3位に浮上した。救世主と言われ続けるためにも片山は逃げない。【金子航】