<広島3-4阪神>◇20日◇広島

 18・44メートル先の打者に迷いなく飛び込んでいった。攻める。内角を突く。阪神岩田が矢継ぎ早に白球を野口のミットに投げ込んだ。打者が配球を読むスキすら与えない。短い投球間隔で勝負した。抜群のテンポを刻んで好投し、若き左腕も充実した表情で振り返る。

 「守りからリズムを作ると、攻撃にいい形でつながる。今日はうまいこと、攻めの投球をできました。行けるところまで行こうと思っていましたから」

 初回から飛ばした。1死後、赤松には追い込んでから足元にスライダーを食い込ませて、空を切らせる。アレックスにも力勝負を挑み、遊ゴロに料理。わずか7球で発進した。2回以降も少ない球数でしのぎ、5回まで9、7、9、8球…。6回裏に東出に中前適時打を浴びて先制されたが、広島ルイスと堂々と渡り合った。代打を送られた7回に打線が奮起して、4得点を奪取。逆転に成功し、7月8日巨人戦(甲子園)以来、43日ぶりの7勝目をプレゼントしてもらった。

 かけがえのない1年を過ごす。6月。北京五輪の日本代表候補に抜てきされ、一流選手と肩を並べた。同26日。ユニホームの採寸のため訪れた都内のナショナルトレーニングセンター。エレベーターの前で遭遇したのはバレーボール男子代表の植田辰哉監督とセッター宇佐美大輔選手だった。

 「五輪だし、すごいことですよね。代表候補に選ばれるだけでも、とてもいい勉強になります」。トップアスリートとの出会いは刺激たっぷりの経験になる。岡田監督も『勝てない壁』を乗り越え、ひとまわり大きくなった左腕を称える。

 「一番良かったんちゃうか。ずっと勝ちがついてなかった。なかなかつかなかったから、良かった」

 広島市民球場は06年にデビューしたマウンドだ。記念すべき場所で、ようやく白星を飾った。岩田は言う。「初登板のところだし、絶対に勝ちをつけたいと思っていました」。あれから月日がたった。初々しい姿はない。この日、6回までに要した球数はわずか53球だ。たくましくタフな投手に成長した。【酒井俊作】