<広島4-7阪神>◇21日◇広島

 阪神の下柳剛投手(40)が史上5人目の40代2ケタ勝利を挙げた。広島戦に先発し、5回を4安打3失点に抑えて4年連続10勝目をマークした。阪神在籍者の40代2ケタ勝利に限ると、1949年(昭24)の若林忠志(41歳、15勝)以来、59年ぶりの快挙だ。

 下柳がマウンドに足を踏み入れたときには、すでに2点が入っていた。援護してくれた打線への恩義がある。崩れるわけにいかなかった。初回。先頭赤松に四球を与え、東出の送りバントを自ら一塁に悪送球した。無死一、二塁のピンチ。中軸を迎えたが、冷静になった。2死までこぎつけ、嶋と対決。ファウルで粘られたが、外角スライダーで空を切らせた。

 好調ではなかった。3回に1点を失うと、5回には2点を奪われた。この日は5回3失点で降板。救援陣のリレーに頼った。久保チーフ投手コーチも「不思議な感じ。今日はあまり良くなかったんだけど…」と笑う。それでも、勝ち運に恵まれて、4年連続2ケタ勝利を達成。しかも、40歳代での年間10勝以上は史上5人目の快挙だった。百戦錬磨のベテラン左腕も「ありがたいことだな。みんなの協力のおかげだよ」と周囲への感謝を口にした。

 『一瞬の美学』が下柳を支える。プロ18年目を迎えて、この日の白星で113勝を積み重ねた。今年2月。大好きな格闘技の醍醐味(だいごみ)を熱っぽく語っているとき、ポロリと漏らしたフレーズがある。

 「『武士道というは死ぬことと見つけたり』という言葉があるだろう!」。これは、江戸時代中期の著書『葉隠』の一節だ。武士の日常生活のあるべき姿を示したもので「武士道」の思想を表す。いつ生死を賭けて戦うか分からないから一瞬を大切に生きよ-。

 そんなハートは、下柳にも息づく。登板間隔が空けば、ブルペンでの投球とダッシュを交互に繰り返す「インターバルピッチ」を取り入れる。指先の感覚を大切にするため、打たれれば必ずボールの交換を球審に要求する。工夫を積み重ね、真剣勝負に臨んでいる。

 7月26日の中日戦で白星を挙げて以来、3度目の挑戦で「大台」に達した。それでも一息入れるつもりはまったくない。「(通過点かと問われ)当たり前だろ」と語気を強めた。日本一という目標がある。サムライが、優勝への流れを再加速させる。【酒井俊作】