<阪神3-2ヤクルト>◇9日◇甲子園
勝負だ。金本知憲に迷いはなかった。2-2。回は終盤8回2死。どうしても決勝点が欲しい場面。代打桧山の打球は左前に弾んだ。二塁走者の4番は、体が痛むことも覚悟し、捨て身の本塁突入を試みた。
飯原からワンバウンドでのストライク返球。必死に両手で福川のブロックをこじ開けようとした。だが及ばない。判定は「アウト」。両ひざを地面に強く打ち付けた。特に昨年10月、手術した左ひざのユニホームは破れ、べったり土が付き、裂傷を負うほどの痛手を受けた。
本塁上でうずくまって動けない。心配するトレーナー陣が駆け寄っても状況は変わらない。左ひざを苦悶(くもん)の顔で指さす。めったに痛みを表情に出さない鉄人にしてみれば「緊急事態」。1分ほど時間を要し定位置の左翼の守りについた。そこでも脂汗を垂らし痛みをこらえた。
矢野のサヨナラ弾の瞬間も足を引きずりながらベンチを飛び出た。ロッカーに引き揚げる際も階段を苦しそうに昇った。「何ともないって…。はよ終わらせてくれてよかった。ありがとうございます」。顔だけは笑っていた。
初回、右前打で鳥谷の2点目の犠飛をおぜん立て。本塁激突があった8回も、先頭の金本が作った好機だった。一塁線のボテボテの当たりに全力疾走。内野安打をもぎとった。9月上旬の横浜遠征ではアップは本隊と別。背中、腰、股(こ)関節と特に下半身の張りが見られる状態にもかかわらず、気力で走った。
試合前ミーティングでナインにこう語りかけていた。「みんながヒーローになるチャンスがある。めったにやらないことが起きたらええんじゃない。高橋光と葛城のダブルスチールとか、赤星の2打席連続ホームランとか…」。相手投手から勝負を避けられ、孤立する4番。緊張と緩和を交えた言葉で周囲を鼓舞した。だからこそ背中で示さねばならない。勝利へ、自分ができうるプレーに全力で臨んだ。
心配なのは今日10日の出場だ。普通なら休ませて当然の状況。だがそこは不屈の男だ。岡田監督は言った。「どうや、言うてもしょうがないやろ。悪かったら替えるんか。大丈夫かと聞いても出よるで。骨折しとっても。ここまで積み重ねてきたんやから…」。
この日で連続フルイニング出場は1305試合を数えた。たとえ周囲が止めても1306試合目へ、鉄人は向かう。個人記録のためではない。チームの優勝へ、4番の責務を果たすためだ。痛みの大きさを隠すためか、アイシングを終え、愛車に乗り込むころには口笛を吹いた。そして出場を問う声に「当たり前や」とつぶやいた。【片山善弘】



