<中日4-7阪神>◇15日◇ナゴヤドーム

 天才と評された男のバットが、チームの「壁」を打ち破った。阪神が2点リードして迎えた4回2死二塁。中日小笠原のカウント2-2からの5球目は外角高めへのボール球。ほとんどの打者は見逃す球を今岡は完ぺきにとらえた。打球は左中間スタンドに吸い込まれた。「追い込まれていたから、ボール球でも振るだけだった」。4戦ぶりの4号2ラン。5回までに5点を挙げたのは8月29日以来。貧打に苦しむ打線を勇気づける大きな1発だった。

 誰もが手を出さない「悪球」をヒットゾーンに運ぶのが今岡の持ち味。不調にあえぎ、2軍で苦しんできたが、悪球打ちがよみがえった。3回の攻撃。先頭の平野が左前打で出塁すると、岡田監督はエンドランのサインを出した。外角への変化球で、難しいコースだったが、今岡は右前に落とし、一、三塁でチャンスを広げた。

 フリー打撃で、あえてボール球を投げてもらう時期があった。悪球を打つための練習ではない。実戦では、いろんな状況でいろんなコースにボールが来る。「投手との間合いが大事だから」。練習から感覚を大切にした。「悪球を打つとか言われるけど、それはみなさんがどう思うか。僕は集中するだけだから」。この日の今岡は無心でバットを振った。その姿勢が以前の打撃を思い出させた。

 巨人との決戦を前に、ようやく打ち勝った。4ゲーム差も守った。5年前の9月15日に、阪神は18年ぶりのリーグ優勝を決めた。その時に首位打者を獲得した今岡が、今度もチームを再加速させそうな勢い。数字以上に大きな1勝になりそうだ。