<楽天6-1日本ハム>◇16日◇Kスタ宮城

 

 楽天岩隈久志投手(27)が20勝に王手をかけた。日本ハム戦で9回を3安打1失点の完投勝利。6回1死まで無安打と、3連勝中の相手打線を封じ込んだ。チームは最下位に沈み、クライマックスシリーズ争いから早々と脱落。最多勝、勝率、防御率と「投手3冠」を守り、次回で大台到達を狙う。

 喜びの輪の真ん中で、主役が笑顔で立っていた。勝利が決まる瞬間を見届けると、マウンドの岩隈は野手陣をハイタッチで出迎えた。「完投もできたし、投手戦で勝てたのがうれしかった」と充実感を口にした。4度目の完投勝利を好プレーで支えてくれたチームメートへの感謝を差し出した右手に込めていた。

 快投はアクシデントから始まった。1回、先頭の田中の痛烈なゴロが、右太もも横を直撃した。「痛かったですよ。あともついちゃったし。でもあれで目が覚めたようなもんです」と苦笑いした。痛がる様子を見せることなく、あっさりと打者を片付け続けた。初安打を許したのは、観客が快挙を予感し始めた6回1死。自ら差し出したグラブをかすめた打球が、中前打となった。「あれを捕ったら、やれてましたかね。今日は本当にバランスがよかった」と余裕の言葉が出るほど万全だった。

 苦難を乗り越えた後に、新たな“完成型”が待っていた。近鉄時代は速球とスライダーのキレで抑えこんできた。だが、昨オフの右ひじの手術など、けがと不調が続き当時の球威は失われた。近鉄時代を知り、日本代表合宿に参加した松比良ブルペン捕手も「球威ならダルビッシュの方が上。でも今の岩隈は大人の投球ができる。フォークの制球と、追い込んだ時のシュートがあるから、あれだけ勝てる」。ダルビッシュも手本にするフォークは最速142キロで落ち続け、シュートはバットを根元から折るほどの威力を持つ。ほぼ完ぺきな内容で挙げた19勝目。勢いで押した当時の自分を、数字でも内容でも完全に越えた。

 最下位に沈むチームにあって、クライマックスシリーズ進出を目指し自身7連勝を遂げた。野村監督も「腕の故障がなければ、十分力のある投手。中5日で行くってさ。エースはかがみであってほしい」と、称賛とチームの中心としての姿勢も求めた。大台まであと1つ。「数字を意識しない」が口ぐせだったが、この日は「あと1つは勝っておきたい。まだ全部勝てばプレーオフがある」と力強く答えた。エースが勝利のために投げる姿こそが、チームに力を与え続ける。【小松正明】