<ヤクルト1-3巨人>◇10日◇神宮

 巨人阿部慎之助捕手(29)のクライマックスシリーズ(CS)出場が絶望的となった。10日、ヤクルト戦(神宮)で二塁走者としてけん制球で帰塁した際に右肩を痛めて退場。都内の病院で検査した結果、「右肩関節挫傷」と診断された。4回には先制24号ソロ、6回には適時二塁打を放ち2打点と活躍も、まさかのアクシデントに見舞われた。近日中にも再検査するが、重傷のため日本シリーズに進出した場合でも出場は難しくなった。

 三角巾(きん)で右腕をつったヒーローがビールかけの音頭をとった。病院から舞い戻った阿部は待ち切れないナインを前に切り出した。「みなさんお疲れさまでした。裏方さん、1年間ありがとうございました。僕はできないけど、ビールかけのビールを用意してくれた方々、ありがとうございます。かんぱ~い」。アルコールは傷に障る。そう言うと、乱れ飛ぶ泡を避けるようにひな壇を降りた。

 胴上げの輪にも加われなかった。8回表の攻撃が始まるころ、右肩をテーピングで固め、口を一文字に結んだまま病院へ向かう車に乗り込んだ。ファンから拍手が送られた。試合途中での離脱を余儀なくされても、この日の勝利にだれが一番貢献したか、ファンは分かっていた。

 アクシデントが起こったのは6回だった。右越え適時二塁打を放ち、二塁走者としてリードをとった。けん制球に頭から帰塁。右手が思ったよりも早くベースに付き、次の瞬間、激痛が肩を襲った。両足をばたつかせ、もがき苦しむ姿にベンチは青ざめた。歩くこともできず、担架に身をゆだねるしかなかった。

 頼れるキャプテンだ。4回には左越え先制ソロを放ち、仲間を鼓舞した。「ちょっとみんな固くなってるので、このホームランでほぐれてくれればいいね」と周りを見回した。「ほかのチームのことは関係ない。この球場で自分たちの野球をやるだけだ」と広報に託したコメントは、自分たちに言い聞かせる言葉でもあった。阿部がいなくなった後も、その言葉どおりにナインは戦った。

 決意を持って試合に臨んでいた。五輪代表に選ばれ、北京に行く直前の8月9日、壮行試合に生まれたばかりの愛娘をこっそり呼んだ。もちろんまだ野球など分からないが、父親の背中を見せたかった。だが、その試合はセ・リーグ選抜に完敗。さらに北京でもいいところを見せられずに帰国することになった。「巨人に帰って、父親のいいところを見せないとね」。その一心でシーズンを送っていた。

 都内の病院でのエックス線検査の結果は右肩関節挫傷。症状は重く、22日からのクライマックスシリーズへの出場はおろか、日本シリーズに出場した場合でも復帰は絶望的だ。「せっかく今日はヒーローだと思ったのに。なんとか早く復帰することが僕の仕事です」という悲劇の阿部のためにも、日本一奪回への歩みを止めるわけにはいかない。「阿部の分まで」。それがこれからの合言葉になる。【竹内智信】