<セCS第2ステージ:巨人5-5中日>◇第3戦◇24日◇東京ドーム

 巨人が王手をかけた。中日との第3戦は4時間42分の死闘となり、延長12回、5-5で引き分けた。1点リードの9回に守護神マーク・クルーン投手(35)が先頭打者に死球を与えると、原監督は降板を決断した。同点に追いつかれたが、山口鉄也投手(24)東野峻投手(22)の若手が踏ん張って勝ち越し点を許さなかった。巨人はリーグ優勝による1勝のアドバンテージを生かして2勝1敗1分けとし、25日の第4戦に勝てば6年ぶりの日本シリーズ進出が決まる。

 まさかの出番だからこそ際立った、山口のたくましさだった。1点リードの9回表無死、クルーンが先頭の中村紀に与えた死球が登場の合図だった。ぶぜんとして引き揚げる守護神と入れ替わり、普段通り小走りでマウンドへ向かった。「絶対抑えてやろう」。緊急登板も腹はくくれていた。

 1死二塁で谷繁。初球の外角低めにヤマを張られ同点適時二塁打を許した。だが「気を入れ替えて投げた」延長のマウンドが見事だった。10回は上位打線を簡単に退けた。11回。谷繁にはインロー直球の見逃し三振でリベンジ。2死一、三塁としたが、最後は今年覚えたツーシームで李炳圭を二ゴロに仕留めた。「3回投げたのはいつ以来でしょう…」。無心で腕を振り続けたプロ最長の3回。45球。貴重な引き分けを呼び込む45球だった。

 12回は東野が締めくくった。1死一塁で4番ウッズを空振り三振。サインに首を振り、外角低めに直球を投げる強気さだった。最後も英智を直球で追い込み、変化球を振らせた。「ウッズは長打がある。三振、狙ってました」。頼りになるはずの豊田が8回、ウッズに被弾した。そしてクルーンの乱調。ベテランでほころびかけたゲームを立て直してみせた。シーズン終盤と変わらぬ頼もしさは、大一番でも変わらなかった。

 先発内海が5回で降板。6、7回は西村健、越智が簡単に退けた。4人の共通項は、常時145キロを超える直球の威力。相手に傾きかけそうになる流れを、ことごとく引き戻したのは若きブルペンだった。

 出番が近づくと「目をギラつかせて準備を始める。投手に不可欠な本能を、彼らは持っている」と、木村トレーニング兼投手コーチは言う。山口は「今の持ち場が好きです。長く、続けたい」。まだ育成選手だった06年オフ。なけなしの身銭を切りアリゾナに渡った。当時チームメートだった横浜工藤の言葉に薫陶を受けた。「少しでも長く投手を続けろ。子供が将来野球をしたくなるような、夢を与える投手になれ」。背番号「47」を引き継ぐ左腕の座右の銘。値千金のリリーフで応えてみせた。

 原監督は「本当にリリーフ陣がよく頑張ってくれた。ギリギリの中でしっかりと仕事をした経験。財産になる」と賛辞を惜しまなかった。何としても勝つ。指揮官は執念を込めタクトを振り続けた。2点リードされた6回無死一、二塁。打者小笠原の場面で、初球に、重盗を仕掛け成功。継投は前倒しし、攻める姿勢を貫いた。そしてクルーンを打者1人で交代させる重い決断は、引き分け王手という形で報われた。「大きな決断だった。チームとして勝つために山口を選択した。1戦1戦戦うことに変わりはない」。若きブルペンを原動力に、力強く歩を進め、オレ竜を土俵際まで追い詰めた。【宮下敬至】