<中日5-4阪神>◇6月30日◇ナゴヤドーム

 徳川家康のごとく、じっと耐えてきた落合竜が7連勝だ。阪神戦で鮮やかな逆転勝ち。3点を追う6回1死満塁、藤井淳志外野手(28)がプロ入り初のグランドスラムを左翼席に突き刺した。首位巨人との6・5差は変わらないが、2位ヤクルトの陰に隠れて着実に追撃態勢を整えている。セ・リーグ制覇へひた走る巨人を、忍耐強く追い続ける。

 藤井は塁を埋めている走者のことすら忘れていた。3点を追う6回1死満塁、じっと待っていた下柳のスライダーにがむしゃらに食らいついた。打球は大歓声につつまれながら左翼スタンドに突き刺さった。「打った後も実感がなくて。満塁だというのも忘れてました」と興奮気味に振り返ったプロ初の逆転満塁弾。ひと振りで勝利を決めたヒーローは夢でも見ていたような表情だった。

 2回まで4点リードを許しながらも、難敵を攻略した。4試合連続逆転勝ちの7連勝。今季最多の連勝街道がまた伸びた。ただ、藤井だけはその勢いを実感することができずにいた。「あまりチームに貢献していたわけではないんで」。オープン戦最多安打を放ち、スタメンを勝ち取った。それでもシーズンに入れば壁が待ち受けていた。

 落合監督は「がむしゃらさがなくなった。オープン戦の時とスイング自体が変わっている」と、次第にバッティングを崩していく藤井を冷静に見ていた。10日の楽天戦からはスタメンを外された。ベンチから試合を見つめ続ける日々だった。

 屈辱の中で忘れていたものを思い出した。「試合に出て、野球をやることは当たり前ではない。がむしゃらにチャンスをつかむハングリー精神を強く持とうと思いました」と、再び原点に戻った。29日、ナゴヤドームでの練習の際にある“宝物”を引っ張り出した。それは1本のマスコットバット。昨年まで在籍した中村紀の置きみやげだった。「最近、ボールを引きつけすぎていたので、前でとらえる感覚をつかみたかったんです」と遠くを見つめた。振ることすら難しいと言われる長尺のバットで欠点を修正。この夜の満塁弾はまさしく体の前でボールをとらえる完ぺきな当たり。何度もチームを救った「ノリ」の勝負強さが乗り移ったかのようだった。

 歴史物をこよなく愛する指揮官。気が長く、我慢強い性格は、尾張名古屋の主・徳川家康とダブる。隣の岐阜では首位巨人が、織田信長ゆかりの岐阜城の目前で広島に辛勝。ゲーム差は変わらないが、2位ヤクルトとの差を2・5まで詰めた。若武者の勢いも加わったオレ竜は止まりそうにない。【鈴木忠平】

 [2009年7月1日8時20分

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