幻のボールで球春到来を告げる-。日本ハム・ダルビッシュ有投手(23)が20日の開幕戦、ソフトバンク戦(札幌ドーム)で「魔球」を解禁することが19日、分かった。オープン戦中から極秘でテストしてきた「ワンシーム」と一部で呼ばれる変化球に手応えをつかみ、この日、本格導入を決めた。140キロ前後のスピードがありながら不規則な動きをするボールは、メジャーでも使い手はごく少数で、日本人では初とみられる。4年連続の開幕投手の大役で、秘策とともに白星スタートを切る。

 日本中の誰も見たことがないボールが、札幌ドームで披露される。ダルビッシュが、温め続けてきた「魔球」を駆使して開幕に臨むことを決めた。その名は「ワンシーム」。140キロ前後の高速で打者へ向かい、低めのボールは突如沈み、高めのボールは手元で伸びる。「空振りが取れたり、詰まらせたりもできる」。思いのままに打者を操れる夢の球を完成させた。

 ひそかに試験運用し、本格導入までたどり着いた。春季キャンプ中に、カーライルと野球談議。その中で「イチロー・キラー」で有名なブレーブス・ハドソンの変化球を伝え聞いた。1本の縫い目(シーム)に右手人さし指、中指を挟むようにして掛け、投げる球種だ。旺盛な好奇心から、すぐにキャッチボール、ブルペンなどでテスト。意識的に動かしていると話すだけで詳細は明かさなかったが、「あれはワンシーム。投げたらいい感触だった」と手応えをつかんでいた。

 右打者の低め内角ならば、切れ込むように懐をえぐり、最後にストンと落ちる。変化が似ており「高速シンカー」と表現されるケースもあるという。逆に高めのボールは、伸びて芯を外し詰まらせる。6日ヤクルトとのオープン戦から2試合で実戦導入。両方向へ曲げ、高低への軌道の感覚も「大体は分かる」と、つかんだ。打者の左右に限らず、開幕戦から投入する予定。特に右打者に効果的で、落差がなく150キロ前後で内角へ切れ込むツーシームと、もう1つの武器ができた。「コントロールは抜群ですよ」と不敵に笑い、警報を鳴らした。

 日本ではしっかりと認識して導入する、初めての投手となる可能性が極めて高い。使い手として確認されているのはハドソンのほか、レッドソックスの15勝左腕レスター、ヤンキース守護神リベラら、ごく一部のトップ大リーガー。フォーシーム(直球)、ツーシームに比べれば、指にかける縫い目が少ない分、リリース時に不安定になるため、極めて難しい。卓越した感覚がなければ、なし得なかった壁を越えた。

 親交があるソフトバンクのエース杉内との名勝負に、ミステリアスな新球で臨む。「投手戦?

 僕たちが普通の投球をすればそうなるかもしれないけれど、そればっかりは野球。僕が打たれるかもしれないし、相手が打たれるかもしれないし」。何が起こるか分からないのが、野球の妙味。その可能性を無限に広げるような「魔球」が、ダルビッシュの右腕から放たれる。【高山通史】

 [2010年3月20日8時59分

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