<中日8-7広島>◇28日◇ナゴヤドーム

 落合中日が今季初のサヨナラ勝ちで8年連続開幕カード勝ち越しを決めた。7-7で迎えた延長10回、新外国人ディオニス・セサル外野手(33=メキシカンリーグ)が広島の守護神・永川勝から来日初のサヨナラ打を放った。慣れない人工芝、日本投手独特の変化球に苦しんでいた新助っ人は5回にも失策で逆転を許すきっかけをつくってしまったが、最後はドタバタの「セサル劇場」を自らのバットで締めくくった。

 セサルがチームの一員になった。延長10回1死二塁、広島の守護神・永川勝の直球をとらえた。打球は前進守備の左翼頭上を越えていった。「守備がうまくできなかったから何とかしたいと思っていた。うれしいよ!」。今季初のサヨナラ勝ちを決めたのは悩める新助っ人。ベンチから飛び出してきた仲間たちに、もみくちゃにされながら、ドレッドヘアの背番号7は幸せそうに笑っていた。

 試合後、会見場にやってきた落合監督は思わず「ぷっ」と吹き出した。「勝ちゃあいいじゃねえか。ただ久々に見たよ。こんなにミスの多い試合で勝ったのは。まあ、勝ち負けを争っているんだ。ミスはミスとして、次、やらないようにすればいい」。指揮官が苦笑いするのも無理はない。記録に残った2失策以外にもバント失敗、記録に残らない失策などミスが噴出した試合だった。そして、その中心にいたのがセサルだ。

 3-2と逆転した直後の5回だった。2番手バルデスが同点に追いつかれて、なお1死満塁、天谷の打球は二塁手セサルの正面へ。ところが、併殺を焦ったのか、これをはじいてタイムリーエラー。開幕戦に続く2個目の失策で傷口が広がり、3-6と逆転を許した。延長10回の打席はまさに汚名返上のチャンスだった。

 「Alegria(アレグリア)」。スペイン語で「歓喜」を意味する言葉がセサルのモットーだ。「恵まれた環境で野球ができる幸せを忘れてはいけない。だから僕はいつも笑顔でいるように心がけている」。1月、中部国際空港に降り立った瞬間から、どんな時も笑顔を振りまいてきた。

 ただ、ここ数日は表情も曇りがちだった。オープン戦打率は12球団最低の1割1分9厘。開幕戦では3タコの上に敗戦に直結する失策を犯し、ファンからブーイングを浴びた。試合後、報道陣が守備の話に触れると「なぜ、そんなことを聞くんだ!」と初めて激高した。初体験の人工芝は予想以上に球足が速かった。メキシカンリーグではめったに経験しない落差のあるフォークを多投する日本投手に戸惑っていた。

 だが、勝利の喜びがすべてを忘れさせてくれた。「人工芝のことは言い訳になるから言わない。今日はみんなが僕に抱きついてくれてうれしかった」。仲間に認められ、悩める自分を解き放ったサヨナラ打。ほほ笑みの助っ人が笑顔を取り戻した。【鈴木忠平】

 [2010年3月29日11時36分

 紙面から]ソーシャルブックマーク