<セCSファイナルステージ:中日2-3巨人>◇第3戦◇22日◇ナゴヤドーム

 巨人が土俵際で踏みとどまった。2-2の同点で迎えた9回、5番阿部慎之助捕手(31)が勝ち越しソロ本塁打を右翼に運んだ。クライマックスシリーズ(CS)では前の打席まで通算20打数2安打と不振だったが、引き分けでもCS敗退が決まる一戦で主将の仕事を果たした。ナゴヤドームでの連敗も11でストップ。1勝3敗(中日のアドバンテージ1勝含む)と劣勢は変わらないが、この勢いを第4戦以降に持ち込む。

 ダイヤモンドを回るスピードに、阿部の純な気持ちが表れていた。2-2の9回。先頭で、中日岩瀬から勝ち越しソロを放ったが、ゆうゆうと走る“特権”を捨てた。低弾道で右翼フェンスを越える打球を見るや、表情も変えず一気に駆けた。「余韻に浸る暇はない。次の守りのことを考えていました」。

 直前の8回、同点とされた。引き分けでもCS敗退が決まってしまう。土俵際だった。自身はCSで、この打席まで20打数2安打。チームも、自分も救う劇的なひと振りだった。それでも、すぐに裏の守りに思いをはせた。理由は明快だ。勝ちたいから。「1日でも長く野球がやりたいんです」が本心だった。

 責任を感じていた。試合前、主将として「開き直って行きましょう。負けたら終わりなんで」とゲキを飛ばしたが、自身の状態には「どこかに気負いや焦りがあったのかも知れない。なかなか打つ方で貢献できなくて」と打ち明けた。結果で取り返すしかない。王手をかけられた前夜の敗戦後、「明日は打って勝ちたい」と誓った。有言実行。しかし、「今日も、前の打席で打っていれば、もっと楽な展開になっていた」と反省した。ただ、「反省はするけど、短期決戦だから暇もない。明日に切り替えて」と、すぐに前を向いた。

 そんな言葉が、チームを引っ張る姿と重なる。10年目の今季は、自己最多タイ140試合に出場した。当然、疲れはたまっている。ヒーローになって、お立ち台の決めぜりふ「最高です!」を叫んだ時のこと。テレビ中継で活躍を追ってくれている実姉に「目の下にクマができてるじゃない。大丈夫なの?」と心配されたこともあった。

 だけど、仲間には疲れを見せなかった。むしろ、思いやった。松本が不調となれば、そっとアドバイス。「オレのバットで練習してみたら」と提案したこともあった。「悩んでそうだったからね」。底抜けの明るさで盛り上げたことも。8月、クルーンが投ゴロを一塁にボウリングの球のように放って締めた試合があった。そのときの写真をプリントしたオリジナルTシャツを作製。関係者に配って笑いを取った。いつも、チーム全体を見回してきた。

 次戦へ望みをつなぐ一打を、原監督は「岩瀬から打ったというのも非常に大きかった」と称賛した。残り3戦3勝が絶対条件で、敵の守護神に与えたダメージに意味がある。球場を離れる直前、阿部は再び「切り替えないと。余裕はこいてられないんで」と言った。本当に喜ぶ瞬間を、自力でつかみ取る。【古川真弥】

 [2010年10月23日9時16分

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