<オリックス2-6西武>◇6月30日◇京セラドーム大阪

 西武の菊池雄星投手(20)がプロ初勝利を挙げた。オリックス戦にプロ2度目の先発登板。速球とスライダーに加え、新球「スプリットチェンジ」を駆使し、6回途中まで2失点に抑える。打線の援護と救援陣の助けも借りて、ウイニングボールを手にした。新人の昨年は左肩痛などで1軍登板なし。どん底を味わった大型左腕がようやく、プロとしての本当のスタートラインに立った。

 菊池は泣かなかった。どんな話題を振られても、小野投手コーチに「また泣くのか?」といじられても、ずっと笑顔。「疲れました。握力がなくて、バテバテでしたけど、リリーフピッチャーや野手の援護のおかげで勝たせてもらいました。チームに迷惑をかけてばかりだったけど、少しは恩返しができたかなと思います」。よどみなく言葉が出てくる。少し早口な、いつもの受け答えだった。

 プロ初登板となった6月12日の阪神戦は3回途中4失点KO。「落ちる球が必要」との教訓から、2軍降格後「スプリットチェンジ」の習得に励んだ。スライダー系とは逆軌道の、右打者の外へ逃げていくようなボール。変化球はひざ元を攻めるしかなかった左腕に、対右の攻め手が増えた。まだ絶対的なボールではないが、1回に田口を三ゴロに打ち取るなど、序盤から相手打線に新球の意識を植えつけた。最速145キロながら、130キロ台も多かった直球。「ガッカリするくらいスピードが出てなかった」という状態でもしのげたのが、その証拠だった。

 プロ入り直後、こう言っていた。「自分のことはどんなにボロクソに書いてもらってもいいです。見ないんで」。高校時代に見ても仕方ないと気づき、心に決めたはずだった。それがケガで出遅れて半年が過ぎると「いろんなことを書かれてますけど、見返したい」と口にするようになっていた。さらには「こんな記事が載っていたらしいんですけど…」と自分からコーチに相談したこともあった。

 揺らいだ信念。しかし、2年目に入って変わった。「バッシングも必要なんですよね。されなくなったら、ある意味終わりだと思う」。結果が出なければ批判もされるし、いろいろな報道をされることもある。それを受け入れられるようになった。翻弄(ほんろう)され続けた1年間で、厳しい世界を生き抜くメンタリティーにたどり着いた。

 念願のウイニングボールは、花巻東高の佐々木監督に贈るつもりだ。日米どちらの球界に進むか悩んでいたドラフト前。「オレは(日米)どっちでもいい。どんなことでも矢面に立ってやる。命をかけるくらいの覚悟がある」と言ってくれた大恩人だ。

 150キロを超える速球で打者をねじ伏せた高校時代には、まだ及ばないかもしれない。それでも、プロで磨いた変化球と太く、たくましくなった心。あのころの自分になかった2つで勝った。最後につけ加えることを忘れなかった。「まだ自信もない。また上に呼ばれるよう、下で頑張ります」。今後は、チーム事情でいったん登録抹消となる可能性がある。欲しかったひとつの結果は恩返しだと言った。再びはい上がり、自分のために勝ち、自信をつける歩みがここから始まる。【亀山泰宏】