<阪神5-3中日>◇26日◇甲子園

 単独2位や、借金完済王手や。おまけに超新星の出現や。プロ初昇格を果たしたばかりの4年目阪神森田一成内野手(21=関西)が代打でプロ初打席初アーチの離れ業。通算51人目で阪神では初の快挙。育成枠からの返り咲き苦労人が劣勢の試合を振り出しに戻した。やや気は早いが、優勝争いに不可欠なラッキーボーイにご指名です。

 弾丸ライナーが左翼ポール際にスッと吸い込まれた。心地よい風に吹かれ、ダイヤモンドを1周した。ナインからの祝福に“小ブラゼル”は照れ笑いを浮かべた。最後尾の“師匠”ブラゼルは抱擁で出迎えた。1軍初昇格したばかりの森田が、プロ初出場ででっかい仕事をやってのけた。

 2点ビハインドの5回1死一塁。先発能見の代打で緊張の初打席に向かった。初球から持ち前の豪快なフルスイング。空振りからの2球目、外角147キロも思いっきり振り抜いた。史上51人目のプロ初打席初本塁打は、長い阪神の歴史では初。それも同点に追いつく値千金の1発だった。

 森田

 いい感じで打てたので入ってくれと思ってました。ずっと緊張してました。本当にうれしかった。最高です。

 これまでの3年間は決して、順風満帆ではなかった。07年高校生ドラフト3巡目で入団。高校生離れした飛距離を期待されての指名だった。だが、古傷の右肩の影響もあり、2年目の09年に育成選手に降格した。

 森田

 育成になったことが一番しんどかった。いつかはい上がってやるって気持ちでした。

 あきらめなかった。1度は苦杯をなめたが、持ち前の長打力をアピールし続けた。昨年7月に支配下登録に返り咲いた。今春のキャンプは初の1軍スタートで、オープン戦序盤までは1軍にしがみついた。

 2軍の名古屋遠征中の6月22日の練習中のことだ。思うような結果が出なかった森田に声をかけたのは、吉竹2軍監督だった。

 「バッティングを変えてみたら?」

 大きく上げていた足を、コンパクトに上げるフォームに変更。結果はすぐに出た。翌23日ウエスタン・リーグ中日戦で2安打。24日オリックス戦では5号2ランを放った。「課題でもあった下半身の粘りが出てきました」。7月2日ファーム交流戦の巨人戦で今季初の4番に座った。以降、4番でスタメン出場した10試合で36打数11安打、打率3割5厘。猛烈アピールで夢舞台への切符を勝ち取り、その舞台で輝いた。

 森田

 結果的に一番いい結果になって良かった。しっかり練習して1軍にしがみついていきたい。

 シンデレラボーイの活躍で、同率2位中日との直接対決を制した。借金を1に減らし、首位ヤクルトとのゲーム差は7。理想的な形の後半戦スタート。ここから始まる虎の逆襲に、新星森田が最高の勢いをつけた。【岡本亜貴子】