<巨人5-2横浜>◇22日◇東京ドーム

 レギュラーシーズン最終戦の横浜戦で、9回裏にサプライズのシナリオが待っていた。3番手で登板した巨人内海哲也投手(29)が涙、涙の初の最多勝を確定させた。2点ビハインドの5回から登板し、9回まで無失点。1点を追う9回無死満塁から代打長野が逆転サヨナラ満塁弾を放つ劇的フィナーレで、中日吉見に並ぶ18勝目が転がり込んだ。

 仲間の姿がかすんで見えた。必死に手で拭っても、内海の頬を熱い涙が伝った。もう泣かない。あの日、そう誓ったはずだったが、原監督、サヨナラ弾の長野と抱き合いながら、堂々と男泣きした。「野手のみなさんの気持ちが伝わってきて…。すごくうれしかったです。(最多勝は)まさか自分が取れると思ってなかったです」。純粋な涙が、レギュラーシーズンのフィナーレを飾った。

 格別の涙だった。09年4月22日ヤクルト戦。6回2失点で降板した内海は、ふがいない自分にいら立ち、ベンチで泣いた。高橋尚(現エンゼルス)からは「お前はプロだろ!」と叱責(しっせき)。「勝てなくて泣いて…。情けない」。その時からギュッと涙腺を締めたはずだったが、あふれる感情に決壊した。

 新たな命に背中を押された。16日に三男・爽太君が誕生した。開幕後、聡子夫人の妊娠が発覚した時、立てた誓いがある。

 内海

 この子のためにも、かっこいいパパでありたいんです。今の成績じゃ全然ダメ。勝って勝って勝ちまくって。一番大変なのは聡子だから、嫁さんが頑張ってくれる分、僕は野球で頑張りたい。

 16日深夜、陣痛を訴える聡子夫人を車に乗せながら、改めて誓った。「次の試合は絶対に勝つ」と。

 マウンドに上がったのは2点を追う5回だった。先発沢村が3回1/3を2失点で降板。ベンチ裏で「すみません」と頭を下げるルーキーに「ここまでかかったのは自分のせいやから。気にすんな!」。直前までは最多勝のタイトルへの意識もあったが「(沢村)拓一に負けをつけたくなかった」と、全力で5イニングをねじ伏せた。

 1点を追う9回、代打を送られ、同点なら最多勝に届かない状況にも「野手の方が点を取ってくれる」と仲間を信じ続けた先に、歓喜の18勝目があった。チームは2年連続3位で終わったが、最後は6連勝でフィニッシュ。下克上での日本一に向け、ムードが高まる劇的な勝利だった。奇跡の主役に立つ真のエースは、涙が乾いた後、こう誓った。「泣いている場合じゃないんで。CSを勝ち上がって、日本一を目指して頑張っていきたい」。その時、マウンドの中心で歓喜の涙を流す。【久保賢吾】