<オールスターゲーム:全パ1-4全セ>◇第1戦◇20日◇京セラドーム大阪

 約束のフルスイングで、全セのDeNA中村紀洋内野手(38)がMVPに輝いた。1点を追う2回1死一塁、日本ハム斎藤の初球を、京セラドーム大阪の最上段に逆転2ランをたたき込んだ。近鉄時代に続き、両リーグで勝利打点付きのVアーチは、前オリックス清原和博氏以来2人目。両リーグMVPは5人目の快挙だ。07年オリックス、10年楽天と2度戦力外通告を受けた苦労人が、地元大阪で再び輝いた。

 8年ぶりオールスターの第1打席、初球。「全球フルスイングしようと、決めて打席に入りました」。絶対フルスイング。誓って立った中村が、日本ハム斎藤の直球をとらえる。真芯ではじき返した打球は、京セラドーム大阪の最上段に消えた。パワー、技術、精神力…。かつてと同じ豪快な1発に、思い出深い球場に集まったファンの大歓声が待っていた。

 地元大阪。92年から13年間近鉄に在籍し、猛牛打線をけん引した。ファン投票では10年ぶり出場だった。「いろいろ育ててくれた球場。まさかまたオールスターに出られるとは思っていなかった。元気な姿を見せられて良かった」とかみしめた。球宴MVPは3試合連続本塁打を放った01年以来だ。

 前回出場した04年は、球界再編騒動のまっただ中だった。近鉄を退団後は米国挑戦、オリックスを1年で自由契約になり、10年には楽天から戦力外通告を受けた。DeNA入り前は、野球浪人も経験した。苦楽を味わった8年間。「いろいろなことがあったけど、いろいろな勉強ができたと思う」と言った。

 24日には39歳になる。こんな1発があれば、すべてを忘れられる。前半戦最終戦となった18日ヤクルト戦。球団初の3連勝を決めた横浜スタジアムからの帰り際、「MVP取りたいね」と言った。有言実行の1発。「今は最下位でチーム状況も苦しいですけど、ベイスターズも頑張っているよという姿を見せられて良かった」と、チームへの思いも忘れなかった。

 真夏のうたげは、第2戦、第3戦と続く。「思う存分、次はないと思って、全球フルスイングしたい」。狙うは3戦連発。最後まで「フルスイング」の言葉を何度も繰り返し、慣れ親しんだ球場を後にした。【前田祐輔】

 ◆戦力外からMVP

 過去には山本和範、山崎武司らがいる。山本は82年オフに近鉄を解雇され、83年に南海へ入団。球宴初出場となった86年第1戦でMVPを獲得。95年オフにダイエーを戦力外となり96年に近鉄へ復帰すると、今度は福岡ドームで行われた96年第1戦で2度目のMVPを獲得した。山崎は04年オフにオリックスを戦力外で楽天へ。08年第1戦で中日時代の00年第2戦以来のMVPに。