<ソフトバンク7-1楽天>◇29日◇ヤフオクドーム

 「控え侍」が、びっくり仰天のグランドスラムだ。WBC日本代表だったソフトバンク本多雄一内野手(28)が1点リードの7回にプロ初の満塁弾を放った。開幕前に第1子の女児が誕生したばかり。WBCでは2打席しか出番がなかった男がダメ押しの「パパ1号」。チームの開幕戦5連勝(1分けを挟む)に大きく貢献した。ヤフオクドームでの開幕戦満塁弾は史上初。ドーム開場20周年のメモリアルイヤーに花を添えた。

 高め直球を振り抜いた。打球が右翼席に届いた。確認した本多は、右手で高々とガッツポーズ。10年7月17日オリックス戦(京セラドーム大阪)以来の3シーズンぶり本塁打は、何とびっくりの開幕戦グランドスラム。楽天3番手高堀から試合を決める一打に「気分が悪いわけがない。手応えはすごく良かった」。お立ち台で笑顔が広がった。広いヤフオクドームでは自身2本塁打目。11年の統一球導入後は初アーチだ。

 チームでは不動のレギュラーも日本代表の一員として苦しみ、もがいた。WBCでの出番は2打席のみ。代走要員としてベンチを温め続けた。それでも「いろいろ感じたことがあった」。貴重な経験を手に、ソフトバンクに戻ってきた。

 侍ジャパンの期間中は、吸収しようと何でもやった。代表合宿で高代内野守備走塁コーチに頭を下げ「(グラブを出す)準備が遅い」と酷評されながらノックを受けた。左手に裂傷ができても、黙々と打撃マシンを打ち込んだ。WBC大会中に導入した振り子打法は、シーズン開幕直前に断念。それでもすべてが血となり、肉となっている。

 23日朝に待望の第1子(女児)が誕生。「それが大きい」とモチベーションの要因だ。WBC期間中も妊娠中の妻を気にかけ、米国から毎日電話した。帰国後は病院で出産に立ち会った。自然と涙が流れた。「より頑張らなきゃいけない」。携帯の待ち受け画面に映る幼い顔を見て、責任感をずしりと感じる。家族も背中を押してくれた「パパ1号」。開幕戦の朝は「ホームランを打ってくるわ」と小さなベッドに語りかけた。冗談のつもりだったが、それが本当になった。

 開幕戦満塁アーチは、球団ではダイエー時代の95年ミッチェル以来。09年の就任後、開幕戦負け知らずの秋山監督は「びっくりした。そういうバッティングができるんだ」と目を丸くした。本多は「自分はホームラン打者じゃない。明日から謙虚に逆方向に打ちたい」。努力は最高の形で報われた。神様からの特大のごほうびにも、決して浮かれない。なかなか手に入らないホームランボールは、わが子の枕元にそっと置くつもりだ。【大池和幸】

 ▼本多がプロ入り初の満塁本塁打。開幕戦の満塁本塁打は07年ズレータ(ロッテ)以来20本目で、ソフトバンクではダイエー時代の95年ミッチェル以来5本目。球団別では巨人の4本を上回り最も多い。本多のようにプロ入り初の満塁弾を開幕戦で記録したのは01年清水(巨人)以来、12年ぶり11人目になる。本多は11、12年と本塁打を打っておらず、これが10年7月17日オリックス戦以来の1発だった。