「師弟」関係のミスターとゴジラがダブルで国民栄誉賞を受賞する。政府は1日、巨人長嶋茂雄終身名誉監督(77)と、巨人、ヤンキースなどで活躍し、昨年現役を引退した松井秀喜氏(38)に対し、国民栄誉賞授与の方針を決めた。長年のプロ野球発展への貢献と、国民を勇気づけた功績が評価された。野球界では王貞治氏、衣笠祥雄氏に続く受賞となる。

 長嶋氏、松井氏の国民栄誉賞ダブル授与について、菅義偉官房長官は「2人は師弟関係にあるということから判断した」と説明した。安倍晋三首相は官邸で長嶋氏について「戦後最高のスーパースターだ。もっと早く決定すべきだった」とし、松井氏については「日米で愛された」と賛辞を贈った。

 関係者によると、安倍首相が発案したのは松井氏が引退表明した昨年12月27日直後の29日で、東京電力福島第1原発に向かう新幹線の車中だった。年明けから検討に着手。1月中旬に元横綱大鵬の納谷幸喜氏が死去。このころダブル授与のアイデアが浮上した可能性がある。首相は3月23日夜、巨人原監督らと会食し、ダブル受賞の内定を伝えた。

 国民から愛されたことが受賞の決め手なら、ファンを大切にしようと取り組んできた姿勢が、実を結んだとも言える。「ミスタープロ野球」と呼ばれた長嶋氏は現役時代、人気を二分した王貞治氏とある誓いを立てたという。「ワンちゃん、2人で1億人、全員にサインをしよう」。だから、どんな時でもサインを断らなかった。そうして、ファンに愛された。その姿勢は愛弟子松井にもしっかり受け継がれた。

 長嶋氏は「本当に光栄です。まして、監督と選手として苦楽をともにした松井君と一緒にいただけるということであれば、これ以上の喜びはありません」と喜んだ。政府は松井氏の背番号55や長嶋氏がプロ野球入りから今年で55年を迎えることも考慮。こどもの日の5月5日に授与することを検討中だ。

 松井氏は関係者を通じて「恐縮しております。長嶋監督の受賞は日本中の方々が納得されると思いますが、私は監督に愛情を注いでいただき、20年間プレーすることができました。ですから、この賞もひとえに監督のおかげです。正直、現時点での私がいただいていいものか、という迷いもありますが、今後、数十年の時間をかけて、この賞をいただいても失礼ではなかったと証明できるよう、これからも努力していきたいと思います」とコメントした。

 「ミスター」「ゴジラ」と、それぞれの愛称で親しまれた師弟が、最高の栄誉を同時に手にする。長嶋氏への授与が遅すぎた感は確かにあるが、松井氏が評価されたのは、育て上げた長嶋氏が評価されたということでもある。長嶋氏にとっては、二重の喜びなのは間違いない。【竹内智信】

 ◆長嶋茂雄(ながしま・しげお)1936年(昭11)2月20日、千葉県印旛郡臼井町(現佐倉市)生まれ。佐倉一高(現佐倉高)から立大に進学。杉浦、本屋敷らと黄金時代を築き、当時の東京6大学新記録となる通算8本塁打を放った。巨人入団1年目の58年に本塁打王、打点王に輝き新人王。59年6月25日の天覧試合(対阪神)ではサヨナラ本塁打。王貞治との「ON砲」で65~73年の巨人V9を支えた。74年に現役引退するまでMVP5度、首位打者6度、本塁打王2度、打点王5度。17年間の通算成績は2186試合、8094打数2471安打、打率3割5厘、444本塁打、1522打点。巨人監督に就任した75年は球団初の最下位。監督は75~80年、93~01年の計15年務め、リーグ優勝5度、日本一2度。アテネ五輪日本代表監督として03年のアジア予選で五輪出場を決めたが、04年の五輪本大会では脳梗塞の影響で指揮を執ることができなかった。88年野球殿堂入り。現役時代は178センチ、76キロ、右投げ右打ち。

 ◆松井秀喜(まつい・ひでき)1974年(昭49)6月12日、石川県生まれ。星稜時代は甲子園に4度出場。3年夏の明徳義塾戦では5打席連続で敬遠された。高校通算60本塁打(甲子園4本)。92年ドラフトでは4球団競合の末、長嶋監督が抽選を引き当てた巨人に1位で入団。98、00、02年に本塁打、打点の2冠。01年首位打者。03年にFAでヤンキースに移籍。4月8日の本拠地開幕戦でメジャー1号となる満塁本塁打。09年ワールドシリーズで日本人初のMVP。10年はエンゼルス、11年はアスレチックスに所属。12年は4月にレイズとマイナー契約を結び、5月にメジャーへ昇格。12月27日に引退表明した。日米通算20年で2504試合、9014打数2643安打、打率2割9分3厘、507本塁打、1649打点。186センチ、103キロ、右投げ左打ち。家族は夫人と1男。

 ◆国民栄誉賞

 77年にホームラン世界記録を達成した巨人王貞治内野手の功績をたたえるため創設。広く国民に敬愛され、社会に希望を与える業績を挙げた個人が対象。11年にサッカー女子W杯で初優勝した「なでしこジャパン」に贈る際、団体も受賞できるよう規程を変更した。

 ◆国民栄誉賞と野球選手

 王貞治内野手(巨人)衣笠祥雄内野手(広島)の2人が受賞。イチロー外野手は大リーグに移籍し首位打者、盗塁王、MVPを獲得した01年、最多記録を更新し、262安打を放った04年と、2度受賞を打診されたが「プレーを続けている間はもらう立場ではないと思う」と辞退した。