世紀の始球式が行われる。5月5日に東京ドームで開かれる長嶋茂雄氏(77)と松井秀喜氏(38)への国民栄誉賞の授与式で、安倍晋三首相(58)が始球式の球審を務めることが、このほど固まった。マウンドから松井氏が投げ、巨人原辰徳監督(54)が受ける。そしてミスタープロ野球は、バットを持って打席に立つ。

 ミスターがバッターボックスに帰ってくる。国民栄誉賞を受賞する晴れの日。巨人-広島戦の前に行われる始球式の舞台に、長嶋氏が満を持して立つことになった。2001年(平13)、最後に指揮を執った際のユニホーム姿で、愛弟子の松井氏がマウンドから投げるボールを見据える予定だ。04年3月に脳梗塞で倒れてから「もう1度、右手でボールを投げたい」と懸命のリハビリを続けてきたが、まずはバットを手に、大観衆の前に帰ってくる。

 当初、始球式は松井氏の引退記念セレモニーとして企画されていた。だが、2人の国民栄誉賞受賞が決まり、イベントはさらなるスケールアップが図られた。目玉として安倍首相に球審を依頼した。警備上の問題などの障壁を手荷物検査やボディーチェックを徹底すること、ゴミ箱やコインロッカーを使用禁止にすることなどでクリア。政府関係筋によると、このほど、ようやく実現が可能になったという。桃井球団社長は「最高の舞台にしたい。松井くんが投げて、長嶋さんに打ってもらう。特別な感じを出したい」と話していたが、捕手として原監督も加わり、豪華メンバーが実現した。

 まさに世紀の始球式だ。ゲストには、すでに国民栄誉賞を受賞している2人の野球人が招かれた。1977年(昭52)にハンク・アーロン氏の通算本塁打記録を塗り替えたことで、国民栄誉賞第1号となった王貞治氏と、87年(昭62)にルー・ゲーリッグ氏の連続試合出場記録を更新した功績で国民栄誉賞が贈られた衣笠祥雄氏。野球界から国民栄誉賞に輝いた面々が、勢ぞろいする。

 正規のチケットは売り切れ。ネットオークションでは通常の4倍から6倍の値段で取引されるなど、5月5日が近づくにつれ、注目は高まるばかり。その中でも、国民栄誉賞授与式の目玉となる始球式は、後世に語り継がれるイベントとなるかもしれない。長嶋終身名誉監督と松井氏の偉業を思い起こさせる、新たな球史の1ページが、生まれようとしている。

 ◆国民栄誉賞の表彰

 過去に国民栄誉賞授与式が、首相官邸以外で行われたのは1度だけ。92年7月28日、漫画「サザエさん」作者の長谷川町子さんの授与式は、東京・用賀の自宅で行われた。生前から人前に出ることを好まなかった長谷川さんは死去しており、同居の姉も病気だったため、知人が賞状などを受けた。77年9月5日、王選手の授与式は巨人長嶋監督、金子コミッショナーらも同席した。記念品として大冠鷲(わし)のはく製が福田首相から手渡された。87年6月22日、衣笠選手の授与式では、中曽根首相から富士山をモチーフとしたブロンズ銀仕上げの額が渡された。これに先立ち、連続試合出場のギネスブック記録認定証授与式も行われた。

 ◆長嶋氏の始球式

 82年7月、大リーグのオールスターが初めて米国外(カナダ)で行われ、アジアの代表として張本勲氏とともに始球式に臨んだ。95年のオールスター第1戦(横浜)では全セ監督として全パの東尾監督と打者として対戦し右前打。東尾監督とは99年のオープン戦でも対戦し、左前打を放っている。97、98年にはJリーグのプレシーズンマッチ(川崎-横浜M)でサッカーの始球式に登場。01年にはマスターズリーグの始球式で金田正一氏と対戦し、2球目を打って投ゴロに倒れた。