<ロッテ2-6ソフトバンク>◇15日◇QVCマリン

 やったぜ石垣島のファミリーよ!

 窮地を救ったソフトバンクの2年目左腕嘉弥真新也投手(23)がプロ初勝利をつかんだ。ロッテ戦の4回、1-2と逆転されなおも2死満塁で救援登板した。ピンチをしのいでプロ最長2回1/3を1安打無失点と粘り、6回の一挙5得点の逆転を呼んだ。若き力の踏ん張りで、再び勝率5割に戻した。

 171センチの体が大きく見えた。逆転され、なおも4回2死満塁。これ以上の失点は食い止めたい。「期待されているのかなと。使ってもらい、思い切り腕を振りました」。大きな仕事に嘉弥真は燃えていた。

 根元をわずか3球で二ゴロ。ピンチを断ちきって5回もしのぐと、6回に打線が5点を奪って逆転。プロ入り後は最長となる回をまたいでの3イニング目も3人で片付け、堂々とウイニングボールを手にした。

 完璧な火消しだった。「以前は左打者が苦手。今は左の抑え方が分かるようになった」。森福らの助言で左の内角をシュートで突けるようになり、スライダーの効果がアップ。スピードを増したチェンジアップも相手を惑わせた。8人と対戦し安打は井口だけ。左打者5人を完璧に抑えた。

 昨年2月、広島とのオープン戦では先発川原が4球で危険退場し予定のなかった嘉弥真が緊急登板。勝利投手になっていた。苦しい場面で大仕事ができる。「よく頑張った。立派な勝ち投手。右にも対応できるし、球種も持っている。あとは自信と経験だけ」と高山投手コーチは最敬礼だった。

 グラウンド外では心優しい運転手だ。1軍でも2軍でもいつも誰かを寮まで送迎する。ある日、ヤフオクドーム駐車場のボンネットにレンタルDVDの袋が置いてあった。「帰りに返してくれってことなんですよ」。ナイター後、わざわざ他人のDVDを返却しに遠回りしたが、人のためになることを厭わない。

 八重山農林では中堅手兼控え投手。卒業後に「野球を続けられないかも」と思ったが、沖縄のクラブチーム・ビッグ開発に手を差し伸べられ、道が開けた。親戚は200人以上。この日感謝したい人を聞かれ「たくさんいます」。言葉は短くても意味は深かった。

 前日14日夜は、昼間のオリックス戦でサヨナラ打を放った今宮をホテルの部屋に招き、プレ誕生日会を行った。「おとこ気じゃんけん」で勝った柳田のおごりで缶ビールで乾杯。その若き2人のパワーが2日にわたって躍動した。「チームは波に乗ってきているので、2連勝して後半戦へつなげたい」。秋にはもっとおいしい乾杯を味うことも可能だ。再び勝率5割。まだまだ働き場所はある。【押谷謙爾】<嘉弥真新也(かやま・しんや)アラカルト>

 ◆生まれ

 1989年(平元)11月23日、沖縄県石垣市。野球は白保轟小4年で始める。八重山農林、クラブチームのビッグ開発ベースボール入り。午前中は野球、午後は物件の掃除など仕事と両立。

 ◆移籍

 都市対抗沖縄県1次予選で評価され、名門JX-ENEOSに移籍。11年ドラフト5位でソフトバンク指名され、入団会見でうれし泣き。

 ◆武者修行

 昨オフにプエルトリコのウインターリーグに参加。7試合に先発し1勝。新球チェンジアップに手ごたえ。

 ◆ファームMVP

 5月にウエスタン・リーグ制定月間MVPを受賞。5月31日に今季1軍初昇格。

 ◆球種

 カーブ、チェンジアップ、スライダーのほか「嘉弥真ボール」と名付けたナックルカーブに近い変化球を持つ。

 ◆サイズ

 171センチ、65キロ、左投げ左打ち。今季推定年俸1000万円。