<ソフトバンク3-1楽天>◇16日◇ヤフオクドーム

 ソフトバンク寺原隼人投手(30)が今季初勝利で「現12球団プラス近鉄」による13球団制覇を果たした。11年6月の王手から4季かけ、7度目の楽天戦に7回1失点で勝利。ピンチで踏ん張る大人の粘りで、互いに甲子園を沸かせた楽天のルーキー松井裕との投げ合いを制した。チームは5連勝で単独首位に立った。

 最初の感想は「もう言われなくていいですね」だった。史上3人目の快挙。重圧から解放された。それ以上に今季初勝利の重みが勝ったというのが、本音だ。「先発全員に勝ち星がついて、1人だけ取り残されたくなかった。勝ちたい、勝ちたいの思いでした」。

 開幕から連敗。勝負どころで2戦連続で被弾した。ブルペンでの力感がマウンドで消えた反省から「腕を振る意識だけでした」。連打と四球で招いた3回無死満塁がヤマ場だった。「やじが聞こえて、コンチクショーと思った」。藤田の同点犠飛まで許容範囲。銀次には追い込んでから、ここから解禁したチェンジアップで空を切らせた。2死から鶴岡が2個目の二盗阻止。「鶴岡さんが刺してくれて本当に大きかった」。4回以降、許した走者は2人。勝負どころで踏ん張る寺原がいた。

 相手は楽天松井裕。高校時代に甲子園を沸かせた者同士の投げ合い。ともにプレートの一塁側に立ち、6足半の踏み込み位置もほぼ同じ。「掘れて大きな穴になっていた」。互いの意地をぶつけ合ったマウンドの痕跡。地元宮崎のうどん同様、柔らかさを好む寺原には好都合に働いた。6四球で崩れていった新人とは違う、大人の投球をみせた。

 トレードを2度経験し、FAで昨年復帰。息の長さが13球団勝利となった。18歳でのデビューと同じ日なのは数奇的だ。当時と変わったことは「眉毛」と即答。「細かったですもんね」と笑った。変わらないのは「なまり」。お立ち台では宮崎弁で「テゲ(とても)うれしいー」と叫んだ。

 劇的な勝利でも翌日に勝利球をキャッチボールで使うほど無頓着。宮崎・日南学園時代の高3夏。当時甲子園最速158キロを出した赤いグラブは、小学生だったトシ坊こと弟寿隆さん(20)が遊びで使っていた。「今も実家のどこかにあるんじゃないですか」。マニアからすれば垂ぜんものでも関係なし。「残しているのは初勝利、初ヒット、初2桁のボールだけ」という寺原が、珍しく「自分で13球団と書いて取っておきます」と目を細めた。プロ13年目での13球団制覇。土のついたボールは記憶にも記録にも残るものとなった。【押谷謙爾】

 ▼寺原が楽天戦で今季初勝利を挙げ、現12球団すべてから勝利を記録。セ、パ12球団となった58年以降、全12球団勝利は15日の涌井(ロッテ)に続いて14人目。寺原は消滅した近鉄からも3勝し「現12球団+近鉄」の13球団勝利は工藤(西武)杉内(巨人)に次いで3人目だ。工藤は通算218勝目、杉内は113勝目で達成しており、寺原は60勝目と効率よく稼いだ。