キューバの看板選手であるフレデリク・セペダ外野手(34)の巨人入りは、単なる戦力補強の枠を超えている。59年のキューバ革命以降、スポーツ選手が他国でプレーすることは禁止された。昨年9月に、政府管轄のもと、期限を設けるなどの制約をつける形で移籍を認めた。セペダは新制度を利用した初めてのケースとなった。キューバはスポーツ大国で、ボクシング、陸上、バレーボールなど、世界レベルの競技がある。巨人を模範とし、同様の取り組みを行うチームが世界中に広がる可能性が高い。

 長嶋茂雄終身名誉監督(78)は「野球大国のキューバとは、私が監督になってからずっと、選手獲得や人的交流の可能性をさまざまなルートで探ってきました。20年来の希望がようやく実現できて、本当に喜ばしいことです。さらに両国の友好関係が深まることを願っています」と粋なコメントをした。巨人関係者は長年キューバに足を運び続け、設備改善などの協力を惜しまず、絆を深めていった。

 中南米の現地紙は今月2日、白石オーナーが在日キューバ大使と和やかに会談したと報じた。正しい道筋が来る日を信じ、球団を挙げ交流を続けてきた。セペダの加入を「友情の証し」とし、キューバ野球連盟との間に、技術向上と人的交流を目的とした友好協定を結んだ。コーチ研修などの検討を始め、続く選手の調査も継続する。野球の暦が両国で異なるため、シーズン終了後の契約形態についても協議する。契約金、年俸の扱いについてはキューバ野球連盟と選手に委ねる。球界のパイオニアが、切り開いた道を大切に育む。

 キューバ球界にとって転換期を迎える移籍になる。かつてリナレスが特例で中日でプレーしたが、今回は意味合いが違う。同国の球界事情に詳しい関係者は「リナレスは雲の上の存在でご褒美のような移籍だった。セペダはスター選手だが、もっと身近な存在。選手にとって風穴になる移籍になる」と分析した。

 これまで他国でのプレーは認められず、亡命という手段しかなかった。12年ロンドン五輪から野球競技が除外され、WBCでも世界一を逃し続けた。モチベーションが下がり、競技レベルの低下に同国幹部は憂いていた。

 そこでキューバの絶対的存在であるフィデル・カストロ前国家評議会議長の息子で、同国野球連盟副会長を務めるアントニオ・カストロ氏は開放政策路線を推し進めていった。

 日本は、キューバ人にとって憧れの国だ。野球のレベルの高さは広く知れ渡っている。その中で巨人は「Gigantes(ヒガンテス)」と知名度も高い。連続ドラマ「おしん」は同国でも再放送され、視聴率90%台をたたき出したという。日本への親近感も高く、セペダの日本球界挑戦を国民全体で後押しするムードになるに違いない。

 セペダは11歳の時に世界少年野球大会出場で来日し、王貞治氏の指導を受けた。思い出とともにかつては「いつか王さんのいる東京のジャイアンツでプレーできたら最高だ」と願望を明かしていた。功労者たちが夢をかなえ、日本での経験を財産として持ち帰る。その先にキューバ野球の復権が見えてくると信じている。【宮下敬至】