全体練習を再開した阪神でひときわ、ソフトバンクとの日本シリーズを心待ちにするベテランがいる。「代打の切り札」関本賢太郎内野手(36)は「新しい挑戦やね」と声をはずませた。日本シリーズに初出場した03年ダイエー(当時)との第7戦で、野球人生の分岐点となる本塁打も放った。ホークスとの再戦で、プロ18年目の熟練の技を見せつける。

 巨人を撃破したCSの余韻は消えていなかった。秋晴れの甲子園でフリー打撃を終えたベテランの表情も澄み渡っていた。ナインが一堂に会して練習を再開。日本シリーズに向けて、堂々と動き始めた。引き揚げ際、冗談めかして言うのは関本だ。「勢いに便乗しよっかなと思うよ」。いや、勢いだけではない。投打の歯車がかみ合い、個々の力量通りの結果を示す。

 敵は定まった。パ・リーグ王者のソフトバンクだ。プロ18年目のヒットマンは武者震いしていた。

 「新しい挑戦やね。メンバーはまったく違う。向こうも、こっちもね。そういうのは心の片隅に置きながら…」

 関本にとってホークスとの日本シリーズは特別な思いがある。いまに続く野球人生を切り開く、ターニングポイントになったのが03年のダイエー(現ソフトバンク)戦だった。3勝3敗で迎えた10月27日の最終戦。先発起用され、5点差を追う5回、和田(現カブス)のスライダーをとらえて、左翼にソロ本塁打を放った。

 周囲は若きスラッガーの覚醒を予感したが、打った本人は違うことを考えていた。「野球人生で初めてバットを短く持って打席に入った」と明かす。打撃が不調だったための苦肉の策で、まさかのアーチ。「長距離ヒッターを目指して、バットを長く持って振り回していたのに打てずにいて。短く持ってね、打ててしまった…。ハッとなった。あれからコンパクトに振るのを徹するようになった」。期待を背負うパワーヒッターから、転身するきっかけとなった打席だった。

 いまや、確実性を備えた代打の切り札として君臨する。05年のロッテ戦はノーヒット。日本シリーズ全9打席で安打は、あの会心のアーチだけ。関本は言う。「僕、3回目やから、そろそろ勝ちたいね」。さあ、悲願の日本一へ…。03年の星野阪神を知る野手は関本しかいない。あれから11年がたった。プロでのあるべき姿を愚直に追い求めてきた、ベテランの軌跡に思いをはせたい。【酒井俊作】