<東京6大学野球:早大4-0東大>◇第1週初日◇9日◇神宮

 早大が東大に先勝した。リーグ戦初先発の大野健介投手(4年=静岡商)が、7安打を許したが10三振で完封、初勝利。高校時代に「ほほ笑み王子」と呼ばれた左腕が、今季からチームを率いる岡村猛監督(56)に開幕1勝をプレゼントした。慶大-立大戦は雨のため中止、11日に延期となった。

 横なぐりの雨、緩くぬかるんだマウンド、そして9回2死満塁。大野は極限状態にいた。打席には東大一の好打者、主将の岩崎。駆け寄った岡村監督から「あと1つ、落ち着いて取ろう。マウンドで楽しもうじゃないか」と言われた。大野に笑みはない。だが、目に強い力が宿った。2球で追い込み、3球目に自己最速143キロを記録。ボールが続きフルカウントからの6球目、こん身の力を込めた141キロの直球が外角低めに決まった。見逃し三振。「ホッとしました。フォアボールじゃないかと思った。ホントにホッとした」。安堵(あんど)の表情とともに、マウンドを下りながら左拳を握り締めた。

 3年間で9試合、負けた試合でしか登板がない。日本ハム斎藤、西武大石、広島福井と、大事な試合はすべて1学年上の先輩たちが任された。ゆえに、登板は敗戦処理。「ずっと悔しい思いをしてきた。先発したい、と思ってきた」。3人が抜けた今年、残った投手陣はリーグ戦未勝利。登板経験者も、大野と高橋哉至(かなた、4年=富山東)の2人しかいない。投手陣は不安、と言われ続けた。「負けたくない気持ちでやってきた」。左のエースを象徴する背番号18を背負う大野は、周囲の評判を覆したかった。

 岡村監督には終盤に149キロ右腕のルーキー、有原航平(1年=広陵)を投入する考えもあった。だが、大野の開幕戦先発は2週間以上前から決めていた。それだけに、最後は最上級生の気持ちにかけた。「4年生でいいスタートを切れた」と、開幕戦勝利をプレゼントしてくれた選手をねぎらった。試合後、岡村監督と大野は固い握手を交わした。大野は「監督さんが(試合を)任せてくれた。その気持ちに応えたいと思った」。高校時代、多くのファンを生んだ笑みを、最後にのぞかせた。【清水智彦】