4月はいろいろな世界で新しい生活がスタートする。毎月1回の日刊スポーツ独占「野茂英雄のメッセージ」今回は、「新人のころ」について聞いた。社会人で会社生活に入ったころのこと、プロに入ったばかりのころ。世の中のルーキーズたちにも少しばかりヒントになるかもしれない。軽いノリで始めたインタビューは、だが最後は野茂の考える「プロフェッショナルの価値観」にたどり着いた。(敬称略)(聞き手・南沢哲也)
相手にされない
―野球ではなく、会社員としての新入社員のころを聞こうと思います。覚えていますか。
「新日鉄のころですか。仕事は、もう、何をしていいかわからなかったですね。ちょうど『鉄冷え』の時で、円が一気に高くなった時で。野球で協力会社(新日鉄化学)にとってもらうことになって。野球部(の社員として)で入ったのは、僕が初めてでした。でもみんなよくしてくれました。」
―どんな仕事だったのですか
「総務部に配属されたのですけれど、『○○やっておいて』と頼まれて、手伝えるようになったのも、もう、3年目ぐらいになってからです(笑い)。午前中が仕事で、午後からはグラウンドにいました。幸せな時代です。今のクラブチームだとか、社会人チームのあり方の初期というか。結局、自分の会社だけじゃなく、協力企業も一緒になって、ひとつのチームを応援してもらうという初期のころでした。2年目のオリンピックに出たころ(1988年)から、野球が忙しくなって会社にはほとんど出ていないです。『鉄冷え』でしたけれど、世の中的にはバブルでもあったんです。行事がやたら多かったんですよ。」
―入社したころは、有名ではなかったでしょう
「最初入って1年目の時は、特に相手にされていなかった。僕よりもだいぶ前の野球部の先輩にまつわる話があって、その人は会社で『ちゃんと仕事しなさい』っていわれたらしいのです。それで『オレはプロに行くから仕事せえへん』て言ったらしいのです。そうしたら、上司の人も『わかった。そういうつもりで(野球を)やっているのだったら、もう仕事しろ、とは言わないから、必ずプロへいけ』って言ってくれた、という話を聞いていたのです。それであるとき、上司の人に『これをやってくれ』と指示を受けて。でも、僕は会社に鉄の仕事をやりにはいったわけではなかったですし、社会に初めて出たばかりで、できなかったんですね。『お前、何もできないのか』というようなことを言われたので『僕は野球をやってプロにいく』って言ったんですよ。そうしたら、(職場に)オープン戦とかの結果がファクスで送られてきているじゃないですか。それも初年度は、結構打たれている(笑い)。上司の人が、それを持ってきて『お前みたいな成績のやつがプロ行けるわけないだろ』って言われました(笑い)。」
―総務部はどれかくらいの人数だったのですか
「僕のいた『出荷』の係と、経理とか、結構いましたよ。30、40人。」
―総務部では新入社員が1人?
「1人だったですね。総務部では。歓迎会とかしてもらいました。良くしてもらったことを覚えています。
写真:ドラフトで指名された89年、本紙記者と縄跳びをする新日鉄堺時代の野茂英雄
恥、失敗を経験
―スーツで通っていた?
「はい。毎日。会社に来るまではスーツで、会社に来てから(仕事着に)着替える。
―社会人にいた3年で何を学んだ
「今考えると、それは大きな3年間だったですね。社会のことを全く知らないまま、世の中に出て、それを知ることができた。細かく言うと、例えばそのころは新人歓迎会に出ても、スーツの下に白の野球のソックス履いて行っている(笑い)。失礼ですよね。ネクタイだって、毎日一緒ですしね。ネクタイしていれば、いいっていう感覚だった。ベルトと靴の色もバラバラでしたし、そんな細かい社会人としてのルールもひとつひとつ学んでいった。少しずつ、先輩に教わっていきますよね。『お前、スーツに白のソックスはないやろ』って。例えば、中華料理店につれていってもらっても、どの料理がどの名前かもわからなかったですし。焼きめしとか、焼きそばとか、家で作ってくれるようなものは知っていますけれど。そんな小さなことから教えてもらったですよね。社会人を経験できたことは、今考えれば財産だと思いますよね。恥をかく、失敗するようなところを早いうちに経験できた。
実際、プロに行ってから、何も知らない、のでは困っていたでしょう。人づきあいの人数も違いますし、失敗していいという人たちばかりでもないですから。プロにいったら、やはり見えを張らなきゃいけないという部分もありますしね。すべてが知らないっていうこともできないですし、すべてを教えてくれるっていうこともない。特に1年目から活躍していったりすると、(同じような境遇を経験していて)それを教えてくれる先輩がいるかどうかっていうのもわからないですし。」
―新しい世界に入っていくときに不安はありましたか
「それさえもわからなかったです。高校の同級生とかは就職活動して。担任の先生たちと話をして、自分に合う会社を探していたわけじゃないですか。僕の場合は夏休みの野球のセレクションで採用が決まっていたので、それだけで満足していたのかもしれないです。」
―高校の野球部の中から、野球の道を進んだ人は
「(3年生は)17人いて、僕だけです。」
―プロに入るときには不安はなかったですか
「プロに入るときには、結構『覚悟』していったので。」
―どういう覚悟ですか
「自分の中では都市対抗優勝してから(プロに)入りたかったんですね。(2年目に)都市対抗に出て自分がやりがいのようなものを持てたから、都市対抗で優勝して、会社から来て応援してくれている人たち、が喜べるように。なぜ、都市対抗が盛り上がるのか。なぜ、会社が都市対抗に力を入れるか、っていう意味もわかったので。やっぱり、優勝してから行きたかったですね。」
―会社が都市対抗に力を入れる意味がわかったというのは
「新日鉄みたいな大きな会社だと、転勤があったりね、みんなたくさんしていると思うのだけれど、チームが都市対抗に出て勝ち進むことによって、転勤した人たちが東京ドームに集まって、会うらしいんですね。ちょうど、東京で試合があるから『ドームで会うか』っていって、異動先からみんなやってくる。そうなると、堺に帰った時に、御礼を言われる。『おかげで久しぶりに離れた仲間と会うことができました』って。それでまた仕事やる気にもなるし、帰った時に会社の活気が全然違いますよ。僕らの場合、会社の中にグラウンドがあったので、それはよく感じました。
バックナンバー
- 1. 引退
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- 7. 臨時コーチ 教える
- 8. メジャーでの戦い方
- 9. 企業スポーツ 危ない
- 10. 社会人新人時代
- 11. プロ野球新人時代
- 12. プロの価値観とは
- 13. 少年時代
- 14. マウンド
- 15. 優勝渇望
- 16. 高校 -1年夏
- 17. 高校 -2年夏
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- 20. トルネード -自己流
- 21. トルネード -仰木さん
- 22. トルネード -不変性
- 23. トルネード2 -Image
- 24. トルネード2 -Damage
- 25. トルネード2 -Advantage
- 26. 世界への挑戦1
- 27. 世界への挑戦2
- 28. フォークボール1
- 29. フォークボール2
野茂英雄(のも・ひでお)1968年(昭43)8月31日、大阪市生まれ。成城工-新日鉄堺。88年ソウル五輪に出場し銀メダル。89年、8球団の競合の末、ドラフト1位で仰木監督の近鉄に入団。体を大きくひねる独特の「トルネード投法」と、鋭いフォークボールによる奪三振などでいきなり18勝を挙げ、スター選手に。90-93年まで史上唯一の4年連続最多勝をマーク。
95年にドジャースに入団し、13勝6敗でナ・リーグ新人王。球宴にも出場し先発を務めた。ド軍2年目の96年(対ロッキーズ)、レッドソックス時代の01年(対オリオールズ)にノーヒットノーランを達成(両リーグでの達成は史上4人目)。
06、07年はメジャーでのプレーはなかったが、08年にロイヤルズで復帰。しかし白星を挙げることなく4月末に自由契約。同年7月、現役引退を発表した。
日米通算201勝155敗1セーブ、3122奪三振。現役時代のサイズは188センチ、104キロ、右投げ右打ち。03年にNPO法人「NOMOベースボールクラブ」を設立。家族は夫人と2男。
野茂氏のオフィシャルサイトがオープン。
明治神宮大会
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