

投球フォームの連続写真を渡した。
野茂は、しばらく見入った後「これは近鉄入ったばかりの最初のころじゃないですか。この時はまだだめなんですよ。まだ調整中なんですよ。オープン戦の時です。まだシーズン入る前ですよね」と指摘した。ドジャースのフォームについても、「これも行った年の投球練習の時ですよね」と指摘した。
後で、写真を確認してみると、確かに90年の近鉄入団時のオープン戦と、95年ストが明けた後の6月のドジャースタジアムでの試合の投球練習だった。当たっていた。

- 近鉄時代とドジャース時代のトルネードの連続写真を懐かしそうに見る野茂。表情は柔和ながらも、調整中の写真であることを一目で見抜いた
トルネードは「縦」と「横」の動きが複雑に絡み合いながら、最大限のパワーを引き出している。大きく振りかぶる縦の動きから、体をセンター方向にひねってパワーをためる横の回転。ぎりぎりまで引き絞った弓から矢が放たれるように、真っ向から投げおろす縦の動きで、ためたパワーを解き放つ—。
ただ、力任せに投げ続けていただけではない。実際、野茂はクレバーだった。
1つ例を挙げる。
メジャーに行った当時、野茂から、トルネードで体をセンター方向にひねった時に「わざとキャッチャーミットから1回目を切ることがある」という話を聞いたことがある。
打者は投球のコースを探ろうとする時、投手の目線を手がかりにすることがある。だが、その投手が1回目をそらすと、打者は一瞬「どこに投げるのか」と不安になる。投球が速い上に、少々荒れ球という先入観がある投手はなおさらだ。もともと打者の心にある「怖い」という一抹の不安をかきたてれば、一瞬の勝負ではそれだけでも有利になれる。そういうこともあのフォームには含まれている。
野茂は「(その話は、コントロールが悪いことの)言い訳でしょ」と笑っていたが、「でも、自分の中には残っているんですよ。見えているんですよ。投球のラインが。だから目を切っても大丈夫です」とも言った。本当に好調時はマウンドの右腕からホームまで糸をひくようなラインがあった—ように見えた。絶好調時のトルネードは、本当にユニーク(特徴的)だった。
―打者にとっては威圧感があるフォームだと思いませんか
「それはバッターに聞いた方がいいんじゃないですかね」。
―これだけ全身を使うピッチングって、そうはない
「いや、みんな使っていますよ。(問題は)うまく使い切れているかどうかでしょう」。
良い指摘だと思った。短い言葉の中で本質を突いている。その次につないだ言葉が、一番興味深かった。
「ある意味では無駄なところも多いんじゃないですか。僕の場合。でもこうじゃないと、僕の場合はだめなんですよ。今で言うと、例えばダルビッシュはああやって、普通のシンプルな、ロスのない投げ方でガシッといい球を投げる。ダルビッシュの持っている『(球を投げる時の)感覚』と、僕の『感覚』というものは、一緒のものなんですけれど、僕はこういう投げ方をしないと、こういう体の使い方をしないと『つかんだ感覚』そのものが出せない。僕は無駄な動きもしないと、ボールが行かないんです。だから無駄なものも多いんです」。
―現役の時からわかりながらやっていたのですか
「現役の時は完ぺきだと思ってやっていますよ(笑い)。人と照らし合わせた時にわかるし、人に説明するときには話します。無駄な動きがいるピッチャーもいっぱいいるんですよ。それが必要なんですよ。その人が相手を抑えるためには」。
―でも野茂にとっては、これがベストだった
「そうですよ。無駄な動きがないと、自分の持っている感覚でボールが投げられない。だから…ベストです」。
僕が聞きたかったことだった。
野茂はあえて『無駄』と言ったけれど、それはやはりまったく無駄ではない。世の中の投手は、当然身長も、リーチの長さも、骨格も筋肉も、その質もすべてちがうわけだから、画一した投球フォームが当てはまるわけはない。それぞれが持っているベストパフォーマンスを出すために絶対に必要なものは、投手の数だけある—それが当然なのだ。
面白いのは、「無駄がある」と言ったフォームが、長所も欠点も含みながら、彼の絶対的な特徴となったこと。そしてそのフォームは、何とも言えない魅力を放って、人を引きつけることだ。たぶん、これからも。
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野茂英雄(のも・ひでお)1968年(昭43)8月31日、大阪市生まれ。成城工-新日鉄堺。88年ソウル五輪に出場し銀メダル。89年、8球団の競合の末、ドラフト1位で仰木監督の近鉄に入団。体を大きくひねる独特の「トルネード投法」と、鋭いフォークボールによる奪三振などでいきなり18勝を挙げ、スター選手に。90-93年まで史上唯一の4年連続最多勝をマーク。
95年にドジャースに入団し、13勝6敗でナ・リーグ新人王。球宴にも出場し先発を務めた。ド軍2年目の96年(対ロッキーズ)、レッドソックス時代の01年(対オリオールズ)にノーヒットノーランを達成(両リーグでの達成は史上4人目)。
06、07年はメジャーでのプレーはなかったが、08年にロイヤルズで復帰。しかし白星を挙げることなく4月末に自由契約。同年7月、現役引退を発表した。
日米通算201勝155敗1セーブ、3122奪三振。現役時代のサイズは188センチ、104キロ、右投げ右打ち。03年にNPO法人「NOMOベースボールクラブ」を設立。家族は夫人と2男。
野茂氏のオフィシャルサイトがオープン。
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