<運命の日を待つ(中):高校生編>◆松本裕樹投手(盛岡大付)

 今だから言えることがある。松本は「正直、つらかったです…」と、この夏の甲子園を振り返る。大会屈指の右腕として注目されたが、岩手県大会決勝で発症した右肘の痛みを抱えたまま初戦の東海大相模戦に臨んでいた。試合直前のキャッチボールでは痛くて「投げられると思わなかった」。それでも巧みな投球術で勝利を導き、才能の片りんを全国に見せつけた。

 野球部を引退した今は、右肘の治療が最優先。学校の授業後は自動車教習所に通い、ランニングや体幹トレーニングなど軽い練習を続ける。「プレッシャーがないので解放されたような感じ」。穏やかな気持ちでドラフトを待つ。

 プロになる夢をかなえるため、故郷の神奈川を離れ岩手の強豪・盛岡大付でプレーすることを選んだ。「ここに来たからには何もなく帰るわけにはいかない。何が何でも(プロに)行きたい」と決意は固かった。

 1年春に公式戦デビューし、その春の東北大会では当時花巻東の大谷翔平(現日本ハム)にバックスクリーン弾の洗礼を受けた。冬は靴下を重ねばきした上で長靴を履き、雪上バッティングに励んだ。「有名じゃなかったので、上がっていくだけだった」。年を経るごとに成長し、12球団全てから熱視線を集めるまでになった。

 「貴重な3年間だった。岩手は自分を成長させてくれた場所」と第2の故郷に対する思いも強い。「岩手から出る選手もたくさん活躍してるので、それに負けないように、日本を代表するような選手になっていきたい」。夢の先へ、松本はまだまだ成長を続ける。【高場泉穂】