<プロ野球ドラフト会議>◇23日

 恩師との夢が1つかなった。最速157キロ右腕の済美(愛媛)安楽智大投手(3年)が2球団から1位指名を受け、楽天が交渉権を獲得した。9月2日に胆管がんのため亡くなった上甲正典監督(享年67)との約束だったプロ入り。愛媛・松山市内の同校で行われた会見で「まだ夢は続く」と成長を誓った。

 会見場に入ってくる安楽の左手には、上甲監督の遺影があった。見ていてください-。ドラフト会議の会場が映るモニターの前にそっと置いた。楽天の交渉権獲得が決まると、目を少し潤ませた。無数のフラッシュの中、問いかけが始まると顔を引き締めた。

 「監督さんとの夢の1つはかないましたので、ホッとしています。監督さんなら『1位で満足せずここから厳しい世界が待っている。お前ならやれるから頑張れ』と言ってくれるような気がします」

 亡き恩師と交わした約束、「ドラフト1位でプロに入る」を果たした。昨秋は右肘を故障し、夏の大会だけでなく、プロの世界も諦めかけた。悩む安楽を見て入院中の上甲監督は「今、頑張れば花は咲く」と声をかけたという。病と闘う恩師からの言葉。約束の達成に向かってまた立ち上がった。何よりもエネルギーになった。

 しかしまだ夢の途中だ。亡くなった恩師の座右の銘「夢かなうまで挑戦」を安楽も信条にした。「球速は160キロを出したいと思うし、可能性はあると思っている。質のいい、バットをへし折るぐらいのストレートが投げられるようになりたい」。17歳の野望はどんどん広がっていく。「ずっと誰もが日本という舞台で『安楽が一番』と認める投手になりたいとも思ってきました」と何度も繰り返した。プロでも目指すのは日本一だ。

 これまではピンチの時に三振を取り、負けない投手を目指してきた。しかし、プロの世界はそれほど甘くはないことも分かっている。「必死にアウトを取りにいかないといけない。田中将大さんみたいな負けないピッチャーになりたいです」。真っ先に挙げたのは、ヤンキース田中の名前。昨年、楽天を日本一にした立役者。これまでもプレースタイルに憧れて、参考にしてきた投手でもある。同じ土壌で日本一の投手を目指す。

 ここまでくることができたのは、たくさんの支えや励ましがあったから。活躍する姿を見せることが、支えてくれた人たちへの恩返しだと思っている。「見守っていてください」。安楽が夢の続きを歩んでいく。【宮崎えり子】