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勝敗を分けた延長戦

18戦連続延長戦未勝利 負の連鎖に終止符

7回裏広島2死二、三塁、同点となる2点適時打を中前に放つ前田智徳。投手スコット・マシソン
7回裏広島2死二、三塁、同点となる2点適時打を中前に放つ前田智徳。投手スコット・マシソン

 快音を残すはずが、力ないゴロが内野に弾む。同点で迎えた延長11回1死満塁。代打松山は「やべえ!」と併殺を危ぶんだ。だが、巨人一塁手のロペスが打球を捕球できない。サヨナラを確信した27歳は両手を広げてガッツポーズだ。「すっげー、うれしいです! あれヒットですか? ヒットでいいか」。堂林がペットボトルの水をシャワーに変える。菊池が体をぶつけてくる。手荒い祝福劇が繰り広げられ、カープの負の歴史に終止符が打たれた。

 13年4月21日の巨人戦(マツダスタジアム)。借金2の4位で迎えたシーズン20試合目には、重苦しいムードが漂っていた。前日20日の巨人戦先発を回避していた絶対的エース前田健がこの日、「右上腕三頭筋筋膜炎」のため出場選手登録を抹消された。同じ20日には主砲エルドレッドが右第5中手骨を骨折して戦線離脱を余儀なくされていた。

 そんな流れに真っ向勝負を仕掛けたのは先発中村恭だ。3年目のプロ未勝利左腕は今季初登板。先発ローテの谷間で自己最多の128球を投じ、7回途中4失点と粘投した。「緊張はしなかった。ファームと同じ投球ができました」。若手の奮闘を受け、ベテラン勢も黙ってはいなかった。7回にいったん3点を勝ち越されたが、すぐに梵の適時打、代打前田智のセ・リーグ歴代8位タイとなる代打通算87打点目の2点タイムリーで追いついた。

前田健と主砲欠く苦境も「全員の勝利」

11回裏広島1死満塁、松山竜平(中央)はサヨナラ安打を放ち、選手から水シャワーで祝福される。左は石井琢朗コーチ、右は赤松真人
11回裏広島1死満塁、松山竜平(中央)はサヨナラ安打を放ち、選手から水シャワーで祝福される。左は石井琢朗コーチ、右は赤松真人

 両チーム譲らず、延長戦に突入。ここで負のデータが顔を出す。実は広島は11年8月30日ヤクルト戦以来、18戦連続で延長戦未勝利だった。またか…。いや、もう若鯉中心のチームに苦手意識はなかった。11回裏1死満塁、野村監督は代打松山を打席に送る直前、直接ささやいた。「クイックでタイミングを合わせづらいから、バットを気持ち短く持って思い切り行け!」。松山は教えを忠実に守り、指2本分バットを短く持って、巨人西村のフォークを思い切りたたきつけた。ボテボテの二塁内野安打だったが、当たりの善しあしなんて関係ない。指揮官は「最高の当たりを打ってくれた」と熱くたたえた。

 19戦ぶりの延長戦勝利。仕事人・前田智は「勝ててよかった」と短い言葉に喜びをにじませた。松山は試合を振り出しに戻したベテランに対し、「すごい。やっぱり違う。自分も前田さんみたいになりたい」と心から尊敬し、感謝した。主軸2人を失った苦境での大きな白星。野村監督は「チーム全員の勝利。延長戦を勝ちきったのは自信になる。残った選手で歯を食いしばって戦っていきたい」と前を向いた。ベテランと若手が融合して、負の連鎖をストップ。この1勝が後々、16年ぶりAクラス進出への土台となっていった。【佐井陽介】

新人王候補大瀬良&九里に期待

相手打者を打ち取りガッツポーズを見せる大瀬良
相手打者を打ち取りガッツポーズを見せる大瀬良

 昨季は16年ぶりにAクラス入り。今季は絶対的エース前田を軸に、23年ぶりのV奪回を本気で狙う。投手力はリーグ屈指だ。13年WBCで侍ジャパンのエースを任された前田にバリントン、野村を加えた3本柱は安定感十分。ドラフト1位大瀬良、同2位九里も先発ローテの一員として期待される。大瀬良は最速153キロの直球を武器に、現時点で新人王最有力候補。ルーキー勢が目標の2ケタ勝利を達成すれば、いよいよセ界の頂点が見えてくる。

 打線は丸、菊池の1、2番コンビが本格化。不動の4番キラは今季も本塁打量産を予想される。堂林やドラフト3位田中といったフレッシュな若手にも勢いがある。若いチームだけに、伸びしろは十分だ。

広島担当記者

佐井陽介(さい・ようすけ)
佐井陽介(さい・ようすけ)
 1983年(昭58)7月19日、兵庫・川西市生まれ。関学大から06年入社。07年から阪神担当を7年間務め、13年11月から広島担当。08年はメジャー取材、13年にはWBC取材を経験。


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