重傷じゃなかった。WBC日本代表の主将・阿部慎之助捕手(33)が1日、神懸かった回復で周囲を安心させた。右膝を痛めて2月28日の強化試合を欠場したものの、一夜明けたこの日は「治っちゃいました」と、笑顔で福岡市内で行われた開幕前日練習に参加。フリー打撃など通常メニューを元気にこなした。今日2日の開幕戦は大事を取ってベンチスタートになる見込みだが、最悪の事態も覚悟していた山本監督ら首脳陣を安心させた。

 バスを降りると大粒の雨だった。ほとんどの選手が、肩をすぼめ、顔をしかめながら、室内練習場へと向かった。だが、右膝痛で強化試合を欠場した阿部だけは、なぜか笑顔だった。「一晩寝たら、僕の右膝、治っちゃいました」。開幕前日はあいにくの空模様。窮屈な室内練習場での調整となったが「治ったのは、この嵐のおかげでかも」と、再び笑った。

 その言葉通り、練習で軽快な動きを見せた。ウオーミングアップでは先頭でランニングし、キャッチボールは「代役4番」の糸井とコンビを組んだ。最後はフリー打撃。約50球、力強く右足を踏み込んで、快音を響かせた。主将の元気な姿に、一番ホッとしたのが山本監督だった。前日までは最悪の事態も覚悟していただけに「安心しました」と、胸をなで下ろした。

 ただ、阿部が暗い顔を見せなかったのは、周囲を心配させないためでもあった。27日の練習で痛めた直後は、膝が曲がらなかったほど。わずか2日間で完治するはずはない。100%の状態でないことは山本監督も分かっており「膝だから慎重に考えないといけない」と、無理はさせない方針で、ブラジルとの開幕戦はベンチスタートが濃厚。代打での出場に備える見込みだ。6日のキューバ戦での先発出場に照準を合わせ調整していくとみられる。

 「けがの功名」もあった。前日の強化試合は、打撃不振の坂本が4安打を放つなど若い選手たちがたくましさを見せた。一丸となってチームの危機を乗り越えようとする気迫に、山本監督は「阿部の故障があって、選手がカバーしようという気持ちになっている」と、うなずいた。

 阿部もチームメートの思いに応えようと必死だ。「いよいよ明日から本番が始まる。万全の人も、そうでない人もいますが、それぞれがチームのために自分が何をできるのかを考え、みんなで声を掛け合っていきたい」。個人的なケガや不調でうつむくわけにはいかない。仲間を信じて、3連覇への道を突き進む。【広瀬雷太】