<WBC:ドミニカ共和国3-0プエルトリコ>◇決勝◇19日(日本時間20日)◇米サンフランシスコAT&Tパーク

 【サンフランシスコ(米カリフォルニア州)】カリブの野球大国がついに頂点に立った。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦が行われ、ドミニカ共和国がプエルトリコを下し、悲願の初優勝を手にした。1次ラウンド初戦から無傷の8連勝を飾り、大会史上初の「完全V」。メジャーリーグに多くのスター選手を輩出する実力国が、名実とも世界一の座に就いた。MVPには、大会記録の15安打を放った同国のロビンソン・カノ内野手(30=ヤンキース)が獲得した。

 守護神ロドニーが最後の打者L・フィゲロアから27個目のアウトを取ると、マウンド上に歓喜の嵐が渦巻いた。今大会わずか1安打しか許さなかった「怪人」は、ラッキーアイテムのプランチーノ(料理用バナナ)を天高く突き上げながら「最高の勝利だ」と叫んだ。

 プホルス(エンゼルス)オルティス(Rソックス)の両大砲を欠いても、メジャーで実績あるスター級をそろえた。レイエス、カノ、ラミレスらが2つ返事で出場を快諾したのは、母国を思う気持ちがあったからだ。MVPのカノは「今日の勝利はドミニカ国民の勝利。MVPもみんなに取らせてもらったようなもの」と感慨深そうに言った。強力打線を看板にするが、8連勝Vは投手陣の力に頼るところも大きかった。チーム防御率は1位の1・75。特にブルペン陣は2次ラウンド以降、5試合計28回をリレーして1点も許さなかった。

 野球が国技と言っても過言ではない。決して裕福ではない環境で育った子供たちが目指すのは、野球選手としてひと花咲かせること。昨季開幕時には、米国に次ぐ2位95人のドミニカ人がメジャー登録された。野球大国と言われながらも、前回はまさかの第1ラウンド敗退。主力級が試合前日に朝まで飲み明かすなどチームの和を乱し、陽気なラテンのおおらかさが足を引っ張った。

 今大会は名門ヤンキースでベンチコーチを務めるペーニャ監督が統率を図り、愛国心の元で結束した。興奮冷めやらぬメディーナ大統領から携帯電話に直接祝福コールをもらった同監督は、「ようやく故郷に錦を飾れる。私は進むべき方向を選手に示しただけ。それを実行した選手の勝利だ」と目に涙を浮かべた。

 会見場で目の前に置かれた優勝トロフィーを、いとおしそうに見つめたレイエスは、しみじみと言った。「3回目でようやくトロフィーを持ち帰ることができる。このトロフィーがドミニカ全体の誇りだ。今日の勝利は一生忘れることはない出来事だ」。

 カリブ海に浮かぶ小島の大きな勝利。人口約1000万人の小国が、その名を世界にとどろかせた。【佐藤直子通信員】

 ◆ドミニカ共和国の野球史

 同国にとって「世界一」は48年のW杯以来、65年ぶり栄冠。昨季だけで100人以上がメジャーでプレーした野球大国は、50年代前半まで世界大会で好成績を収めていたが、ラテン系選手のメジャー進出が始まったことにより、代表チームは弱体化した。W杯、インターコンチネンタル杯など4大大会で勝てない時代が続き、2度出場した五輪は84年ロサンゼルスが3戦全敗、92年バルセロナは2勝5敗で予選リーグ敗退。21世紀以降、プロの出場が解禁されて、10年のアメリカ大陸選手権で久しぶりの優勝を飾った。

 ◆ドミニカ共和国

 1844年ハイチから独立。総面積は4万8000平方キロ(九州と高知県を合わせた広さとほぼ同じ)。首都はサントドミンゴ。公用語はスペイン。在日ドミニカ共和国人数は446人(11年)。通貨はペソ。宗教はカトリック。ドミニカ国とは別の国。