侍ジャパン中田翔内野手(27)が、値千金の決勝アーチを放った。第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の1次ラウンド、オーストラリア戦。1-1の同点で迎えた7回表、先頭打者で左翼スタンドへ放り込んだ。中田は第1戦から8打席目で今大会の初安打だった。日本は連勝を飾り、2次ラウンド進出へ大きく前進した。悲願の世界一奪還に、また1歩近づいた。

 中田がフルスイングでモヤモヤ感を一掃した。「三振してもいいくらいの気持ちだった」。重苦しい空気が漂う1-1の同点で迎えた7回。先頭で打席に入ると、初球、ど真ん中の125キロのスライダーを捉えた。「行ってくれ」という願いが通じた。「後でバットを見たら、ド先だった」と驚いたが、打球は左翼席へ届いた。今大会の初安打が値千金の決勝ソロ。三塁ベースを回ると「ヨッシャー」と叫んだ。一塁側ベンチ前で待つ小久保監督に勢いよくハイタッチした。

 前夜7日のキューバ戦は不完全燃焼だった。2四球を選び、試合の流れを変える二盗を決めたが、無安打とあり「全く満足できていなかった」。この日も初回2死二、三塁の好機で三ゴロに倒れた。「考えすぎて、ボールを見極めすぎたり、フルスイングが出来ていなかった。案の定、当てに行ったような打撃になった」。消極的な自分にイライラが募っていた。

 終盤の勝負どころで、迷いを振り切った。初対戦でデータが少ない国際大会。「初球から、どんどん振るのが自分のスタイル」。バットの芯に当たらなくても、十分スタンドまで運ぶパワーがある。「あらためて、初球から振る大切さに気付いた」。持ち前の豪快な一振りで最高の結果を引き出した。

 お立ち台では「僕の前を打つゴウ(筒香)が空気を読まず、バンバン打つので」と笑った。4番を譲った2歳下のスラッガーは、8回に2試合連続のアーチを放った。その裏の守備につく前、一塁ベース付近で2人は固く握手を交わしていた。「さすがです」。打線を引っ張る2人の主砲が、がっちりとかみ合った。

 日の丸の重みを感じ続けてきた4年間だった。前回大会は野手最年少で出場。13年秋に発足した小久保ジャパンでは、唯一代表に選ばれ続けてきた。同監督を「雲の上の存在」と敬意を払う。「全盛期は知らないんだけど」と苦笑いするが、信頼に結果で示したい気持ちは人一倍だ。小久保監督は「今日の活躍をもちろん、今後も期待する」と、言った。中田はお立ち台の最後に叫んだ。「全員で世界一を取りましょう!」。新旧4番のそろい踏みで、世界一の奪還へ大きく前進した。【木下大輔】

 ▼中田が7回に勝ち越し本塁打。WBCでの1発は初めての中田だが、V打は13年1次ラウンドの中国戦(先制の左安)同年2次ラウンドの台湾戦(勝ち越しの中犠)に次いで3度目。WBCで通算3V打は、多村(横浜)小笠原(日本ハム、巨人)の2度を抜いて日本人選手では最も多い。中田は15年のプレミア12でも3V打を記録しており、国際大会で勝負強さを見せている。